神秘大陸エーテル上陸 ― 祝福と危険。新種族“ヴェルダ”と最初の裏切り者
セフィロート号が東の水平線を越えたとき、
海の青はゆっくりと紫がかった光に変わった。
空気は濃く、魔力の匂いが纏わりつく。
波がきらめき、霧が淡く漂い、
遠くに巨大な樹の影が見える。
神秘大陸――
これが、世界でまだ誰も立っていない大地。
ログが静かに流れる。
【最初の大陸視認者:四人】
《世界優先権(探索)+1》
《サーバー全体にアナウンスは流れません》
(優先権……戦争の火種だな)
俺は気を引き締め、舵を切る。
それから数時間――
ついに上陸地点が近づく。
桟橋、森、光る石畳……
港らしきものは存在しないのに、
まるで“歓迎するために生まれた海岸”のようだった。
上陸の瞬間――
海岸の風が音を弾く。
「……聞こえる」
森のほうから、澄んだ鈴のような音。
音に呼応するように、影が現れた。
白い髪、褐色の肌、細長い耳、金と蒼の瞳。
人間に似ているが、魔力密度がまるで違う。
美しく、気高く、儚い。
彼女は胸に手を当て、微笑む。
「神秘の大陸へようこそ。
旅の民、深淵の旋律を纏う者たち」
名前が視界に浮かぶ。
【リエル=ヴェルダ】
《種族:ヴェルダ》
《大陸エーテルの守り人》
《魔力共鳴(適性あり)》
レイナが息を呑んだ。
「……綺麗……」
レンは観察しつつ、静かに言う。
「話し方、仕草、視線の動かしかた……
戦闘民族ではない。外交に慣れている」
カイは腕を組み、素直に笑う。
「敵じゃなさそうだな。話してみようぜ?」
俺が一歩前に出ると――
リエルはゆっくり膝をつき、
額を砂浜に触れるほど深々と頭を下げた。
「我が民は“深淵の訪れ”を、
千年もの間待ち続けていました」
風が凍りついた。
(千年前から……?)
リエルは顔を上げず、言葉を続ける。
「大陸エーテルは長く滅びに向かってきました。
あなたがたは“救済の調律者たち”――
そう、伝承に記されているのです」
レイナが震えながら、俺の袖をつかむ。
「ハクアくん……予言……だよね……?」
レンは眉を寄せる。
「予言か、誘導か、計画かはまだ分からない。
“千年前から訪れが決まっていた”なら、危険だ」
カイは笑いながらも目が鋭い。
「救世主扱いってのは嫌な予感しかしねぇ。
救世主ってのは都合よく使われるのがオチだ」
俺はリエルに問いかけた。
「俺たちに、何を求める?」
その瞬間――リエルは涙を浮かべた。
「救ってください。
“この大陸を蝕む災禍”から」
災禍――
その単語に、全員の呼吸が止まった。
リエルは続ける。
「《災禍序列》は、もともとこの大陸の存在。
外の世界へ出たのは、つい最近……」
(やはり、災禍の始まりは“ここ”)
リエルは涙のまま俺の手を取った。
「どうか……助けを……」
迷う理由は無いが、
安易な肯定が“宗教化”を引き寄せる。
だから俺は静かに答えた。
「助けはする。
ただし――依存も崇拝も受けない。
俺たちは“遊びに来た冒険者”だ」
リエルは驚いた後、
緊張がほどけたように微笑んだ。
「……ありがとう。
あなたがたが“自由であること”が、
この大陸にとっての救いです」
レイナが胸を撫でおろす。
「あぁ〜よかった……話が通じる人で」
カイは笑った。
「じゃ、まずは観光だな!!」
レンは肩をすくめる。
「観光の途中で敵が来るのがこのゲームだ」
――そしてその通りだった。
◆
リエルの案内で森を抜け、
都市《エル=シェルタ》に足を踏み入れた瞬間。
ログが開く。
【初の新大陸都市発見者:四人】
《都市初期権限:選択》
《この都市の未来を“発展/中立/戦闘”から選ぶことができます》
プレイヤー街の都市とはまるで違う。
・空に浮かぶ階層都市
・魔力で形成された街路
・透明な建造物
・生命と魔法が融合した文明
見とれる間もなく、
都市にいたヴェルダたち全員が振り返った。
「救世主だ……!」
「深淵が来た!!」
「千年の待望が叶った!」
一瞬で取り囲まれる。
だが――
その人混みの中で、俺は“違和感の音”を聴いた。
(偽物のざわめき……混ざってる)
次の瞬間。
すれ違ったヴェルダの少年が
袖の中から短剣を抜き、
――リエルの胸を刺そうとした。
「!!」
反射より速く、俺は腕を引き寄せた。
「《個別調律:減衝》」
少年の動きが無音のまま無力化し、
短剣が地面に落ちる。
広場が騒然とした。
少年は憎悪に満ちた目で叫ぶ。
「救世主なんていらない!
大陸は滅びるべきなんだ!!!」
レイナが怯える。
「なんで……同じ種族なのに……」
レンが即座に分析する。
「ヴェルダは一枚岩ではない。
“救われたい派”と“滅びたい派”がいる」
カイは剣に手をかけた。
「災禍序列の息がかかってんな……!」
少年は絶望に満ちた笑みで言った。
「もう遅い……
救いの到来は、滅びの合図なんだ……
すべての運命は――すでに始まってる……」
その瞬間、広域ログが世界に落ちた。
【世界イベント更新】
《新大陸・エーテル大陸にて“救世主襲撃事件”発生》
《大陸内世論が【救世派 vs 滅び派】に二分されます》
《四人の行動が、どちらの支持を強めるかを決定します》
都市全域が騒然としていく。
救世か滅びか。
どちらを支持するかで大陸中が割れ始めた。
リエルは膝を震わせながら言った。
「お願い……
この大陸を――失わせたくない……!」
俺は答える。
「救う。
ただし――“大陸自身が生きたいなら”だ」
救いの押し付けは、破滅と同じだ。
だから、選ぶのは大陸自身。
カイは笑う。
「リアチーらしい答えだな!」
レイナはにっこりする。
「それなら、どっちの人も救えそうだよ!」
レンは満足げに頷く。
「両陣営を敵に回す可能性もあるが……上等だ」
そのとき――
遠くから鈴のような破滅の音が響いた。
(……カーミラ)
世界が変わる音がする。
この大陸は救いを望むのか――
滅びを望むのか。
それを決めるのは――四人の行動。
冒険は止まらない。




