大航海 ― 未踏の大陸へ。海上襲撃・新種族との遭遇・そして罠
港町アールグラン。
そこにはすでに“新大陸エーテル行き”を求めるプレイヤーたちが押し寄せていた。
・ギルド専用の大型帆船
・商会が雇った護衛船
・各国の軍艦
・野良プレイヤーの小型船
それぞれが競い合うように船を出そうとしている。
だが――俺たちの前に停泊していたのは、一隻だけ。
白い帆に紋章もなく、無骨で静かな中型帆船。
船体に刻まれた名前は、
《セフィロート号》
持ち主は“王都の港ギルド”ではなく――
騎士団長レオンの私船だった。
レオンが甲板に立ち、手を振る。
「この船は『力を持つが所属しない者』のために造られた。
本来、誰にも使わせるつもりはなかったが――
今は、君たちに預けたい」
カイは素直に驚いた声を漏らす。
「うお……団長、太っ腹だな」
レイナは胸の前で手を組み嬉しそう。
「ありがとうレオンさん。絶対無事に戻ってくるからね!」
レンは礼儀正しく頭を下げる。
「船を汚すことはしない。必ず帰還する」
レオンは俺にも視線を向ける。
「深淵シンエン、頼む。
君たちの旅が“世界の指針”になる」
俺は静かに頷いた。
「任せろ。
誰にでもなく、“俺たちの物語”のために使う」
レオンは満足そうに笑い、船を託してくれた。
こうして――セフィロート号は出航した。
◆
出航から二日目。
果てしない海を進む中、甲板ではのんびりした空気が流れる。
カイは海風に身を預け、笑う。
「あ〜最高だ!戦いがねぇ日も悪くねぇな!」
レイナは釣り竿を垂らして歌うように。
「海っていいなぁ〜♪ 魚釣ってお刺身〜♪」
レンは航海図をじっと見つめながら分析する。
「順調だ。
このままなら予定より一日早くエーテルに着く」
俺は舵輪横から海の“音”を聴いていた。
波、風、帆のきしみ、船底を叩く潮……
全部が美しいリズムで調和している。
(こういう音は好きだ)
だが――
その調和が急に乱れた。
よどんだ低い鼓動。
鉄と油と血の混じった匂いのような“音”。
(敵だ)
遠くの水平線に黒旗が上がる。
《死海の連盟》
PvP特化の海賊ギルド――海戦に特化したプレイヤー集団。
カイがニヤリと笑い、剣を抜く。
「きたァァァ!!やっと戦えるじゃねぇか!!」
レイナは杖をかまえながらも不安げ。
「人数……多すぎじゃない?!」
レンが目を細める。
「10隻だ。
普通なら勝ち目はない」
俺は海の音を調律し、全体を把握する。
敵艦10
それぞれに100〜200のプレイヤー
合計1000以上
対してこちらは――4人。
『逃げる』『隠れる』『降伏』
この3つが定石だ。
だが――
カイが笑う。
「んな定石、関係あるか?」
レイナが震えながらも笑顔をつくる。
「4人なら、できる……よね?」
レンは弓を構えて言う。
「不可能は選択肢じゃない。“勝つか負けるか”だ」
俺は舵輪に手を置き、短く宣言した。
「――調律開始」
◆
戦闘が始まった。
敵艦から無数の砲弾、魔術弾、矢雨。
普通なら回避不能。
だが俺は海を調律する。
「《水音・偏流》」
波の“リズム”を変える。
砲弾の着弾地点がズレていき、
魔術弾が海面に刺さり、
矢が風に乗って逸れる。
海賊ギルドが叫ぶ声が風に乗る。
「なんだ!?狙ってんのに当たらねぇ!」
「この船――動きが読めねぇ!!」
カイは笑いながら飛び移り、
敵艦の甲板に降り立つと大剣を振る。
「さぁ盛り上がろうぜ!!!」
レイナは高台となるマストに登り、支援魔術を重ねる。
「カイくんの身体を軽く!強く!速く!!」
レンは弓で狙撃し、味方が欲しい瞬間に援護を落とす。
「撃つのは必要な一撃だけだ」
俺は船全体を調和へ導きながら戦場の脈を整える。
砲火、跳躍、着地、回避、反撃。
すべてが“自然に連携する”。
海賊船は次々と沈んだ。
その瞬間――
上空から残響のような不快な音が落ちる。
(破滅の調律の残響……?いや、違う)
甲板に“黒い羽根”が降ってきた。
空中に立つフードの人物。
顔が影に隠れて見えない。
■災禍序列《監視者》
「確認完了。
深淵シンエン。
《奈落ノ調者》が心酔した理由、理解した」
カイが舌打ちする。
「災禍かよ!また鬱陶しいのが来たな!」
レイナは警戒しながら杖を向ける。
「戦う気……あるの?」
レンは静かに読み取る。
「違う。これは戦闘ではない。“観察”だ」
監視者は淡々と言葉を重ねた。
「我々はこの世界の《終焉》を望む。
そして“君がそれを選ぶ可能性”を否定していない」
俺は即答した。
「終焉は選ばない。
“楽しさ”を選ぶ」
監視者は表情のない声で返す。
「その言葉が、最後まで変わらなければいい」
黒い羽根が嵐のように舞い――
監視者は気配ごと消え去る。
海風が戻り、戦いの音が消える。
静寂の中、三人がこちらを見る。
カイ「……リアチー。楽しくねぇ方向に世界が動いてるぞ」
レイナ「でも、止められるよね。ハクアくんなら」
レン「選ばれるんじゃなく、選ぶんだ。
世界に飲まれるな」
俺は答える。
「飲まれない。
世界がどう揺れようが、
“俺たちの物語”で貫く」
その瞬間、ログが開いた。
【大陸接近】
《神秘大陸エーテルまであと1日》
《最初に上陸する勢力が、世界の優先権を獲得します》
《カーミラ・ハートレスは既に“上陸ルート”へ移動中》
カイが笑う。
「追いついて奪り返すだけだろ!」
レイナが空を見て叫ぶ。
「待っててねエーテル!!私たちが一番乗りするから!!」
レンは矢筒を閉じ、静かに告げる。
「次は――上陸戦だ」
海が青く輝き、東の地平線が大きく広がる。
まだ誰も辿り着いたことのない大陸が
四人を待っている。
冒険は、さらに熱を増していく。




