感覚の慣らし⑯ ― 世界戦争開戦。四人の戦い方が“常識”を変える
戦争開始から数時間後。
無数の旗が風に揺れ、各国軍の陣地が城外に並んでいた。
王都フラウリアの城壁の前――
王国軍10,000、プレイヤー軍30,000以上。
対するは――
・アストレア王国軍 17,000
・アルカ・フロンティア連合軍 9,000
・傭兵軍 12,000
・無所属プレイヤー集団 不明
・宗教勢力・影組織の独立部隊 不明
総数は 4万以上。
そしてこの戦争の勝敗条件は――
《深淵シンエンと三戦士をどの勢力が“確保”するか》
殺し合いではない。
だが、一歩間違えば死ぬ戦場。
戦争開始の号令は、
皮肉にも王国でもギルドでもなく――
俺のログイン通知が世界に流れた瞬間だった。
◆
城壁の上、風が冷たい。
カイは大剣を担ぎ、戦場を見て肩を震わせた。
「ははっ……マジで来てるじゃねぇか、全員」
レイナは指先を震わせ、一瞬不安そうになるが――
すぐに笑って言い換えた。
「大丈夫……怖いけど、ワクワクしてる」
レンは弓を構え、無数の標的の位置を即座に把握する。
「数が多いだけで勝てるなら、誰も苦労しない。
俺たちがやることは変わらない」
そして、王国騎士団長レオンが駆け寄って来た。
「お前たちを戦場に出すのは本来反対だ。
だが、世界の争いを止められるのは――
“お前たちが戦うしかない”と分かっている」
俺は頷く。
「役割を果たす。
俺たちのやり方で」
レオンは息を飲んだ後、笑った。
「ならば頼る。……どうか、この国を守ってくれ」
◆
遠くで角笛の音が鳴り響いた。
全軍、進撃開始。
・突撃の蹄
・魔術詠唱
・狙撃の矢
・剣と盾の衝突音
戦場の音が 津波のように押し寄せる。
(――始める)
俺は城壁の縁から前へ踏み出し、両腕を広げた。
「調律 《広域》」
戦場の鼓動が震えた。
敵味方、槍、盾、詠唱、突撃、退避、陣形――
あらゆる“戦闘の音”が線となり、譜面として見える。
敵:各部隊の動きに“偏り”がある
味方:突破口はあるが“息が合わない”
なら、整えればいい。
俺は低く響く声で言う。
「支援歌、奏でろ」
――世界が変わった。
◆
〔味方側の変化〕
・連携ミスが減る
・回復魔術の優先順位が正しくなる
・盾兵が自然と狙撃線から外れる配置になる
・騎士団の突撃が“波”のように美しく通る
誰も俺の存在を意識していない。
だけど誰もが“自然に上手くいく”。
レオンが叫んだ。
「これは……支援職の域を超えている……!!
戦場が“美しく整っている”……!!」
〔敵側の変化〕
・連携が噛み合わない
・詠唱キャンセルが増える
・味方同士の行動がぶつかり、攻撃が失敗
・突撃方向がずれ、退避経路が被る
俺は笑う。
「敵を弱くするんじゃない。
味方が強くなるよう“世界を整える”だけだ」
“敵にペナルティを与えていない”から
ヘイト管理も、運営の介入も起きない。
それが調律の真価。
◆
カイが城壁から飛び降りる。
「行ってくる!!暴れてくる!!!」
大剣にぶつかった敵の盾が火花の音すらリズムになる。
「ほらもっと来いよ!!
最高の戦場にしてやる!!」
レイナは城壁から支援魔術を展開。
「味方全員が生き残るように〜♪
落ちてきてもちゃんとキャッチするから〜!」
レンは矢を射ながら呟く。
「狙う必要がない……戦場の流れが“勝手に弱点を晒す”。
シンエン、これが調律の本領か」
騎士団ですら声を上げた。
「戦っているのに……疲れがない!?
攻撃が身体に馴染むようだ!!」
「私たちが強くなったんじゃない!
戦場そのものが“味方している”んだ!!」
俺はただ旋律を聴き続け、必要な箇所を調整していくだけ。
世界は調和した。
このままなら――
敵軍は決壊する。
そう思った。
その瞬間。
戦場の向こう側から、別の“演奏”が響いた。
(……誰かが同じことをしている)
否、まったく同じではない。
“歪んだ調律”。
偶然を利用し、事故を増幅させ、
味方同士を食い違わせ――
戦場の混乱を“快楽”として奏でる音。
その旋律が敵陣営を刺激し、戦意を爆発させた。
カイが顔を上げた。
「リアチーッ!!
向こうのやつらの動きがおかしい!!
なんか“狂ったみたいに強い”んだけど!!」
レンも矢を射ながら叫ぶ。
「異常だ――士気でも作戦でもない!
“戦うほど狂気にハマっていく戦い方だ”!」
レイナが身を震わせる。
「……嫌な感じ……
ワクワクじゃなくて“ゾクッ”とするやつ……」
そして、敵陣の中央――
ひとりの少女が立っていた。
黒いドレス、赤銀のツインテール、
瞳は“快楽に酔った演奏家”の色。
彼女は不気味に笑う。
「――会えた。
“調律者のライバル”さん?」
視界に名前が浮かぶ。
■【奈落ノ調者/カーミラ・ハートレス】
《戦場の“狂乱と破滅”を調律する者》
戦場の音が跳ね上がった。
味方の鼓舞ではなく、
敵の支援ではなく、
破滅を快楽として奏でる調律。
カーミラの声が響いた。
「ねぇ、壊そう?
秩序も勝利も希望も全部さぁ。
あなたとわたし――
“どっちの演奏が世界を支配するか”で遊ぼうよ?」
世界ログが震える。
《深淵シンエン vs 奈落ノ調者》
《調律職、世界に“二人”存在することが確定》
カーミラは舌なめずりしながら指を鳴らした。
「戦争の“意味”を変えよう?
あなたは調和、
わたしは破滅。
――さあ、どっちの音が気持ちいいか証明しよ?」
世界中の視線が戦場へと集まる。
・調和の調律者(俺)
・破滅の調律者
戦争は勢力争いから――
**“二人の演奏勝負”**へと変貌する。
俺は一歩前に出た。
「なら――調律する。
世界が“楽しい方”へ」
三人が背中を合わせるように並んでくれる。
カイ「壊したいやつが相手?最高じゃねぇか!!」
レイナ「負ける気しないよ!だって4人でしょ!」
レン「秩序 vs 破滅。勝つのは“選ぶ側”だ」
カーミラは狂気の笑顔で叫ぶ。
「じゃあ――開演だよ、深淵ッ!!」
世界最大の戦争は、
二人の調律者の対決へと変わった――。




