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リアルチートと、極振りな友人達 〜運営を困らなせる噂のアイツら〜  作者: 暁 龍弥


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プロローグ・キャラ作り(VR)

玄関のドアを開けると、ひんやりした空気と、ほんのり香るコーヒーの匂いが鼻をくすぐった。


「ただいま」


一応声は出す。無口でも、挨拶くらいはする。


「おかえり、ハクア。今日も崇められてたかい、“孤高の神”?」


リビングのソファに、足を組んで座っている男――俺の父親、白亜レグルスが、ニヤニヤしながら手を振った。

世界中を飛び回る仕事人間で、滅多に家にいないくせに、たまに帰ってくるとこういうイジりだけは欠かさない。


「……人聞きの悪いこと言うな」


「事実だろ? ほら、タイムラインにも“白亜様尊い”とか流れてたぞ?」


どこでそれを仕入れてくるんだこの男は。

いや、こいつの情報網、普通の人間のそれじゃないんだった。忘れてた。


「で、例のアレは買えたのか?」


「……これ」


俺は鞄から、黒を基調としたパッケージを取り出す。

そこには、でかでかとタイトルが印刷されている。


《ALL FREEDOM ONLINE》


略して、AFO。今日発売の、フルダイブ型VRMMOだ。


「おぉ、本当に買ってきたのか。争奪戦だったろ?」


「朝から並んだ」


「そこまでしてやりたいのか?」


「……現実より静かそうだし」


ぽつりと漏れた本音に、父親は一瞬だけ目を細めたが、すぐいつもの軽い調子に戻った。


「まあ、お前みたいなのには向いてるかもな。

ところでハクア、“あの件”はちゃんと確認したか?」


「あの件?」


「お前の身体スペックのことだよ。リアルチート君」


リアチー。

それが俺のあだ名だ。――ごく一部の、俺の事情を知っている連中の間でだけ使われている。


「……医療検査はクリアした。フルダイブ許可も降りた」


「OK。なら親として止める理由はないな。

ただし――いつものアレはやるなよ?」


「……?」


父の言う“いつものアレ”がどれのことなのか、少しだけ考えてから、思い当たる。

あぁ、そうか。


「気づいたら、つい“本気を出して”しまうアレだ」


「……気をつける」


「本気出したら、サーバーが泣くからな。運営さんに土下座される前に自重しろよ」


軽口みたいに言っているが、この男が冗談を言うときほど、内容は本気だ。

俺の身体には、生まれつき――いや、正確には、父親の“せい”で、とんでもない強化が施されている。


反応速度、運動神経、視覚処理、平衡感覚。

世界中の研究機関が喉から手が出るほど欲しがる、“人間の限界を踏み越えたサンプル”。


それが俺、白亜ハクアだ。


……そのおかげで、普通に歩いているだけでモデルスカウトどころか、男にナンパされるのは本当に解せない。


「そういえば」


父親がふと思い出したように、テーブルの上を指さす。


「それ、届いてたぞ。AFO専用デバイス」


テーブルの上には、真新しいゴーグル型のフルダイブ機器が乗っていた。

マットな白銀と黒のツートンカラーで、無駄のないデザイン。側面には淡い青色のラインが走っている。


「……早い」


「先行予約組の特典だとさ。世界のどこにいても最速で届くやつ」


「相変わらず、無駄なところにコネ使うな」


「父の愛だよ」


どこの世界に、実験体兼息子に最新ゲーム機を送りつける愛情表現があるんだろうな。


◇◇◇


自室に戻り、制服からラフな部屋着に着替える。

髪をほどいてブラシで軽く整えると、白銀のロングがふわりと広がった。


鏡越しに、自分と目が合う。


金と緑のオッドアイ。

日本人離れした顔立ち。

整いすぎた造形は、俺自身からすると“欠陥”にしか見えない。


「……これのどこがおかしいのかって?」


さっき、心の中で自分に問いかけた言葉がよみがえる。


決まっている。

“普通”じゃないからだ。


普通じゃない容姿。

普通じゃない身体能力。

普通じゃない生活環境。


その全部が、俺を“孤高の神”だのなんだのと祭り上げ、距離を作る。


――だから、ゲームの中くらいは。


「普通でいていい世界、だといいけどな」


そんなことを呟きながら、俺はパッケージを開けた。


ディスクを専用ドライブにセットし、インストール。

その間に、スマホを取り出してメッセージを開く。


【差出人:黒峰カイ】

さっきの“よ!おはよ白亜!”の主だ。中学からの腐れ縁で、数少ない“距離を詰めてくる側の人間”。


『インスコ終わったら連絡しろよ! 俺はもう待機してっからな!!』


メッセージの最後に、テンションの高いスタンプが連打されている。


「……はしゃぎすぎ」


とは思うが、俺も内心は似たようなもんだ。


ディスプレイのインストールバーが100%に達し、起動準備完了の表示が出る。


「よし」


ベッドに横になり、フルダイブデバイスを頭に装着する。

フィット感は悪くない。むしろ、頭の形に吸い付くように馴染む。


システムの電源を入れると、視界の端に透明なウィンドウが浮かび上がった。


【ALL FREEDOM ONLINE フルダイブデバイス 接続準備完了】


「……」


いやでも、ちょっとだけ緊張してきたな。


これは、“ただのゲーム”じゃない。

あらゆる五感を再現し、世界を丸ごと仮想へとつなげる、新世代の遊び場。


そして俺にとっては――“現実と同じか、それ以上に自由に動ける場所”だ。


「プレイヤーネーム……どうしようかな」


そうだ。

さっき、教室で友人に「やるだろ」と言われたとき、心の中で決めていた名前がある。


――深淵シンエン。


名前だけ聞けば、いかにも中二病だのなんだのと言われそうだが、俺にとっては案外しっくりくる。


底の見えない深い闇。

静かで、冷たくて、何も映さない場所。


そこはきっと、俺にとっての“居心地のいい場所”だ。


「……よし、決まり」


【プレイヤーネーム:未登録】


浮かび上がるウィンドウに、俺は指を伸ばす――つもりで、頭の中で名前を思い浮かべる。

このデバイスは、一定以上慣れれば、視線や微弱な脳活動で操作することもできるらしい。


【プレイヤーネームを入力してください】


「深淵シンエン」


小さく口に出すと、ウィンドウの入力欄に、その文字がすうっと流れ込んでいく。


【“深淵シンエン”は利用可能です。登録しますか?】


「はい」


ほんの少しだけ胸が高鳴る。


これから、この名前が、この世界での“俺”になる。


白亜ハクアでも、孤高の神でも、リアチーでもない。

ただの一人のプレイヤー、“深淵シンエン”として。


【登録完了】


視界が、すっと暗転した。


◇◇◇


――真っ暗闇の中に、立っていた。


何もない。

音も、匂いも、風も。


ただ、気配だけはある。

この先に、“世界”があるという確かな予感。


【ようこそ、ALL FREEDOM ONLINEへ】


頭の中に、澄んだ女性の声が響いた。

それはどこか、あの白い部屋で見たことのある“システムAI”の声に似ていて――いや、それはまだ、今は思い出さなくていい。


【これより、あなた専用のアバターを作成します】


きた。

ここからが、キャラクリ地獄――いや、天国の始まりだ。


「……現実と同じでもいいけど、さすがにこの見た目は目立ちすぎるか」


白銀ロング、オッドアイ。

現実では否応なく目立つこの容姿を、そのままゲーム内に持ち込んだら――あっという間に噂になるだろう。


《孤高の神、ついにAFO参戦》とか、どうせ変なスレが立つ。


「目立ちにくくて、でも動きやすくて、俺の感覚に合う身体……」


考えていると、暗闇の中に、いくつもの光の粒が生まれ始めた。

それぞれが、輪郭を持ち、徐々に人型へと変わっていく。


【ベースボディを選択してください】


男性、女性、中性的。

がっしりした体格から細身まで、無数のバリエーションが並ぶ。


「ふむ……」


俺は、一つずつじっくりと見比べながら、どれが一番“しっくりくるか”を探し始める。


――この時点ではまだ知らなかった。


俺のこの慎重なキャラクリが、

後に“運営を本気で困らせるバグ級プレイヤー”と“極振りな友人達”を引き寄せる一歩目になることを。


そして、AFOの公式フォーラムに、


《【悲報】またリアチーがやらかした件について》


というスレッドが、ほぼ毎日のように立つ未来を。


「……まぁ、今はとりあえず」


俺は最初のベースボディに手を伸ばし、形を掴むように軽く握った。


「遊ぶか」


光が弾け、俺の周囲を包み込む。


深淵シンエン――リアルチートな俺の、

“自由すぎるオンラインライフ”の幕が、静かに上がった。

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