感覚の慣らし⑭ ― 深夜潜入戦、影の暗号、そして“心の調律”の覚醒
王都フラウリア ― 深夜。
昼間の喧噪とは違い、
冷たい風が石畳を撫で、街灯が淡い光を落としている。
だが、その静寂は“表面だけ”。
潜伏音、交信音、足音、息遣い――
暗闇の中に違和感の旋律が散らばっていた。
(境界がゆらいでいる。複数勢力が同時に動いている)
建物の屋根の上で、俺たち4人は身を低くした。
レナが夜風に髪を揺らしながら囁く。
「敵……すごく多いね……30人以上はいるよ」
レンは視線を巡らせつつ即座に補足する。
「勢力は三つ。
プレイヤー王国アストレア、巨大ギルド《アルカ・フロンティア》。
そして――“第三の影”だ」
カイは大剣の柄に手を置きながら楽しそうに笑う。
「三つ巴か。こっちに向かってるやつらは“誰が味方か分からない”ってことだな」
俺は息を吸い、響く音をまとめた。
(それぞれの目的は違う)
・アストレア → 「ハクア確保」
・アルカ・フロンティア → 「ハクアを看板にして世界掌握」
・影の第三勢力 → 「四人を“どの勢力にも属させないよう隔離”」
敵同士の思惑がぶつかっている。
だからこそ、混乱は最大になる。
そして――俺たちの“偽りの裏切り作戦”はここから始まる。
◆
王城裏門。
闇に溶けた黒い外套の集団が姿を現した。
アストレアの精鋭部隊だ。
隊長格の男が低く囁く。
「深淵シンエン殿――
我らは迎え入れに来た。王国を捨て、共に来ていただきたい」
フェイク作戦だからこそ、俺は無言で頷いた。
すると彼らの緊張が一気に解ける。
(油断した……この瞬間が“最も脆い”)
だが殺気はない。
彼らは本気で“保護する”つもりなのだ。
たとえ俺の意思を無視してでも。
(利用する、支配する、それでも“味方のつもり”)
曖昧な“正義”ほど厄介だ。
調律の感覚が疼く。
だが――その瞬間。
「待ちなさいよ?」
装飾過剰なローブを纏った複数のプレイヤーが通路を塞いだ。
《アルカ・フロンティア》
先頭の少女サラが笑う。
「シンエンが“離反”して誰につくかを決めるのに、
あなたたちだけが話すのは不公平じゃない?」
アストレア隊長が険しい声で返す。
「これは外交交渉だ。第三者の介入は――」
少女は割って入る。
「第三者ではないわ。
この世界で一番“ハクアを必要としている”のは私たちよ?」
その言葉に闘志が走り、両勢力が剣を抜いた。
◆
カイ「よっしゃ、混乱の時間だな」
レイナ「遊び方、はじまる〜♪」
レン「予定通り“争わせて情報を引き出して”終わらせる」
俺は言う。
「三勢力揃うまで待て。
最後の一つが来てから動く」
◆
サラとアストレアが激突寸前――
その時、影が降りてきた。
無音。
無感情。
黒い仮面の刺客たち。
第三勢力。
リーダー格の仮面が低く告げる。
「調律者は“争わせる餌”ではない。
隔離させてもらう」
三つの勢力が一斉に動いた瞬間――
俺は小さく呟いた。
「――調和」
世界が震えた。
・剣戟の速度低下
・魔術の詠唱テンポ変調
・刺客の足音周期が同期
・全員の重心が中央に集まる
混乱ではなく――“制御された混戦”。
そこにカイが飛び込む。
「一気にまとめて相手してやるよ!!」
剛剣の衝撃が空気を裂き、
敵同士の攻撃をぶつけ合わせ、衝突させる。
レンの矢は精密に“敵の攻撃方向を逸らす”ように撃ち込み、
戦場の流れを誘導する。
レイナの幸運は味方には補正、敵には微弱な“事故”として刺さる。
俺の調律は、
敵の間合いと味方の戦闘ラインを“最適化”していく。
そして数分後。
誰ひとり戦闘不能にせず――
三勢力全員を地面に膝をつかせた。
◆
アストレア隊長が震える声で言う。
「……戦って……いない……
ただ、導かれるままに倒れた……」
サラは歯を食いしばって悔しそうに。
「なんで……戦ったのに、負けた気がしないの……?」
仮面の刺客は固い声で言う。
「これは勝敗ではない……支配でもない……
“調律”だ」
誰も理解できなくとも――
“納得してしまう”。
調律は、相手に“敗北感”を与えない。
だから敵が増え続けるのではなく――
“味方が増え続ける”。
レイナがぽつりと呟く。
「だから……みんなハクアくんに惹かれちゃうんだよね」
カイは笑う。
「戦って気持ちよくなるって最高じゃんよ」
レンは少しだけ恐ろしいことを言う。
「このままだと――世界全員が“シンエンの味方”になる」
(……それは望まない)
戦場を整えるために、
世界から“自由意志”を奪うつもりはない。
だから俺は三勢力全員に宣言した。
「俺は誰のものにもならない。
味方がほしければ――“自分の意思”で来い。
俺は俺で選ぶ。
仲間も、戦場も、未来も。」
アストレア隊長は静かに頷く。
「……奪うのではなく、選ばれる者であれ……か」
サラは俯き、悔しそうで、でもどこか嬉しそうに呟く。
「そんな言い方されたら……嫌いになれないじゃない……」
仮面の刺客は言葉少なく。
「……約定した。
いずれ、助力を求める。」
三勢力は互いに警戒しながらも――撤退した。
◆
戦闘が終わり、
王都の屋根に戻った4人。
沈黙の中で、レナがぽつり。
「……ねぇハクアくん」
「ん」
「私、強くなりたい。
“守られるだけじゃなくて”さ。
隣で一緒に立てるくらい」
その音は――本物だった。
不安でも依存でもなく、
“自分の意思で強くなりたい”という純音。
俺は静かに言った。
「いい。俺が調律する。
レイナが“レイナ自身の強さ”で輝けるように」
レイナは少し涙を浮かべて笑った。
「ありがとう……!」
カイも肩を叩く。
「そりゃ当然だろ。仲間なんだからよ」
レンは微笑みながら言う。
「依存ではなく、信頼。それでいい」
音が――限りなく美しい調和を奏でた。
その瞬間、視界に新しい通知。
【心象調律システム 解放】
《深淵シンエンは“仲間の心の波形”を理解・支援できるようになりました》
※強制ではなく、希望した時のみ作用
戦いだけでなく――
心まで“整える”。
プレイヤー達が求め、避け、惹かれ、恐れ、願う――
すべての“感情の音”が聞こえる世界。
それは制御次第で、救済にも破滅にもなる。
俺は心の中で答えた。
(感情も“奪わない”。
整えるだけだ)
4人の視線が夜空の星に向いた。
世界はますます混乱し、
戦争は避けられない。
だが――4人がいるなら怖くない。
「次は、“国家戦争”の始まりだ」




