感覚の慣らし⑫ ― 世界勢力の勧誘と“誰もが欲しがる存在”
王国騎士団戦が終わって間もなく。
俺たちは城の客間で短く休息を取っていた。
室内は豪奢だが落ち着いた雰囲気で、
窓から王都の夕日が差し込んでいる。
カイがベッドに大の字で寝転びながら笑う。
「はぁ~~最高に燃えた!!
リアチーの調律あると戦場がバチバチに楽しいな!」
レイナはテーブルのお菓子を頬張りながら微笑む。
「えっへへ~♪私のドロップ運ちゃんと仕事してたでしょ〜?」
レンは剣を磨きながら言う。
「騎士団は強かった。
だが世界はあれだけではない。
……ここから“本番”だ」
俺は窓の外の音を聞く。
王都のざわめきと、遠くの鐘の音と、馬車の車輪。
その奥に――
“不自然な旋律”が混ざっていた。
(……訪問者が多すぎる)
予感通り、扉がノックされた。
騎士が頭を下げる。
「外部勢力からの使者が押し寄せています。
順番に面会したいとのことです」
カイ「来たか――勧誘ターイムか」
レイナ「えっ!?有名人になった気がする〜!!」
レン「無視はできない。情報が不足している。」
俺は短く返す。
「挨拶だけは受ける。全てを聞いてから決める」
◆
最初に通されたのは、
黄金色の紋章を掲げた四人のプレイヤー。
自己紹介の前に名乗った。
「我々は《プレイヤー王国アストレア》の外交団だ」
既存の国をプレイヤーが占有し、
事実上国家となっている巨大勢力。
リーダー格の騎士風の男が微笑む。
「深淵殿、そして“極振りの御三方”。
ぜひ我らと共に世界を取らないか。
あなた方の力と知名度は、国王として充分すぎる」
カイが苦笑。
「いきなり“国家の王になれ”って?
スケールぶっ飛んでんだろ」
外交団は続ける。
「対価は好きに選んでください。
名声でも、領土でも、税収でも」
レイナが小声で囁く。
「なんかすご〜い……王様かぁ……」
だが俺は聞く。
「もし俺たちが断ったら?」
外交団はためらいもなく答えた。
「――他国から守る。
どんな手段を使っても。
“あなた方の敵になる勢力”を全て排除する」
カイとレンの目つきが変わった。
それは“味方の提案”ではなかった。
保護を名目にした“囲い込み”だ。
俺は静かに答える。
「悪い。
俺たちは遊びに来た。
支配も所有も、されるつもりはない」
外交団の微笑が消えた。
「残念です――ですが、理解しました。
これからは“国対国”として会いましょう。」
去るときの足音は、明らかに敵意を含んでいた。
◆
次の来訪者は真逆だった。
黒いフードの人物が一人だけ入ってくる。
名乗りは短い。
「《影の連盟》です」
表向き存在しない、
プレイヤーの裏社会を統括すると言われる組織。
フードの人物は柔らかな声で言う。
「勘違いしないでほしい。
あなた方を縛る気はない。
ただ――“こちら側に来てほしい”」
レイナが身をすくませる。
「なんか怖い……」
影の人物は続ける。
「俺たちは暴力でも金でもない。
“情報”を扱う。
あなたたちが安全に冒険できるよう、裏から世界を調律することもできる」
カイが警戒しながら言う。
「で?対価は?」
人物は笑う。
「一つだけ。
“敵は必ず殺す”という約束だ」
空気が凍った。
レンが短く切り捨てる。
「それは調律とは真逆だ。断る」
影の人物は深く頭を下げる。
「……理解しました。
あなた方は“戦争ではなく冒険”を望む者だ。
ならば願う未来が重なることもあるでしょう。
敵対はしません。
むしろ――必要なときにだけ、名前を呼んでください」
去っていく足音は静かだった。
俺たちは互いに頷き合った。
「敵じゃない。けど味方でもない。
――価値観が一致するときだけ協力する相手」
レンの言葉に全員が納得した。
◆
だが、三つめは――違った。
応接室に入ってきたのは、
煌びやかな装飾のローブを着たプレイヤーの少女。
「大手ギルド《アルカ・フロンティア》リーダーのサラです♪
うちに入りませんか?
名声も、装備も、ランキングも、世界一が約束できますよ?」
レイナは困ったように笑う。
「うわぁ……営業スマイルの匂いがする……」
カイは遠慮なく言う。
「悪いけどさ、俺ら“4人だけ”でやるのが楽しいんだよ」
少女は首を傾げる。
「だからこそです♪
4人を最優先に支えます。
他のメンバーは全てサポート班にします。
誰もあなた方の邪魔はしません」
レンが核心を突く。
「得たいのは“ランキングの数字”か
“名前の横に飾るための肩書き”だな」
その瞬間、少女の瞳の色が冷えた。
「……本当に愚かですね。
あなたたちと組めば世界一。
断れば――敵は世界中に増えます」
空気が一瞬張り詰める。
俺は短く言った。
「それでも、選ぶ。
俺たちが楽しいと思える方を」
少女は作り笑いのまま告げた。
「……いいでしょう。
世界があなた方を追い詰めたとき――
“うちを選ばなかった後悔”が始まります」
ドアが閉まった途端、室温まで下がったように感じた。
レンが呟く。
「……あれが一番危険だ。
あのギルドは数で押し潰すタイプだ」
レイナは心配そうに。
「こんなに敵が増えちゃって大丈夫かな……?」
カイはニッと笑った。
「最高じゃん。
これ、物語始まったなって感じしかしねぇだろ」
俺も笑った。
「誰に囲われるでも、支配するでもない。
――この四人で冒険する」
そのとき視界に通知。
【世界同時告知】
《調律者争奪戦 第二幕:外交・暗殺・誘拐・買収・裏切りフェーズ開始》
街の喧騒が一斉にうねり始めた。
誰もが“四人を巡って”動き出す世界。
◆
そして客間を出ようとした瞬間――
廊下の空気が裂けた。
殺気。
音のない殺意。
赤い瞳の少女がナイフを構えて俺に飛びかかった。
《暗殺者ランクSS:プレイヤー》
カイが剣を抜くより速く、
レンが矢をつがえるより速く、
レイナが叫ぶより速く――
俺は調律を叩き込んだ。
「停止」
響いた一音で、暗殺者の動きが止まる。
彼女は刀を落とし、息を荒げた。
「……なんで……対策していたのに……
スキル封印……無効化……すべて塞いだ……
それでも止まるなんて……」
俺は静かに言う。
「敵でも味方でもいい。
俺たちが遊びたいように、邪魔させない」
少女は震えた声で呟いた。
「……化物じゃない……
“ゲームの外側の存在”……」
その言葉を最後に、
暗殺者は転移石を握り、姿を消した。
沈黙。
レイナが不安そうに言う。
「狙ってくる人が……どんどん増えちゃうかも……」
カイは笑う。
「それで上等だ。
狙われねぇ最強なんてつまんねぇだろ」
レンは落ち着いて弓を持ち替えた。
「敵が多いほど守る理由も強くなる。
俺はそれでいい」
俺は短くまとめる。
「敵も味方も来る。
でも決めるのは俺たちだ。
調律するのも、選ぶのも――俺たち自身」
3人が頷いた。
その瞬間、世界通知。
【全プレイヤーへ】
《深淵シンエンを中心とした“四人”の選択が
世界のイベント進行に直接影響することが確定しました》
つまり――
俺たちが“どの勢力と組むか/敵に回すか”で世界が変わる。
世界は俺たちの一挙一動を注視している。
そして俺たちは笑う。
四人で冒険する――
それだけを選んだだけなのに、
世界が勝手に盛り上がっていく。
面白い。
このゲームは――本当に面白い。




