感覚の慣らし⑪ ― 王国騎士団戦、世界が動き出す起点
玉座の間奥――
壁が左右に割れ、巨大なアーチ型の通路が続く。
案内されたのは王都闘技場。
観客席のような席はなく、
“戦いのためだけ”に造られた石のコロッセウム。
中央に立つは、十名の騎士。
金と黒の重装備、深い赤のマント。
一目で分かる――一人ひとりが、国を支えられるほどの実力者だ。
その中で最も前に立つのは、
蒼い髪に鋭い金の瞳を持つ青年――
【王国騎士団長:レオン・ヴァルハイド】
槍を携えたその姿は、威圧ではなく、“信念”の圧。
レオンが声を張る。
「深淵の調律者――
そして“極振りの三戦士”。
国は貴殿らの力を必要としている。
ゆえに、我らが試す。
貴殿らの強さが――正義か、驕りか」
カイが笑う。
「試されるのは嫌じゃねぇ。
全力で倒しに来いよ」
レイナはウキウキした声。
「味方相手でもドロップって出るかな〜?落ちたら嬉しい〜♪」
レンは弓を構え、視線を鋭くする。
「敵ではなく味方でも、全力は変えない。それが礼儀だ」
レオンが構えた瞬間――
十名の騎士全員の“演算音”が一斉に鳴り響いた。
高密度。
正確無比。
欠点のない旋律。
(強い。だが美しい)
強敵ほど、調律は心地いい。
俺は仲間に短く告げる。
「いくぞ」
開始の合図すら必要なかった。
瞬間、十名の騎士が一斉に動いた。
・速度で翻弄する二名
・前衛として受け止める三名
・左右から側面攻撃する二名
・後衛魔術師三名
そして団長レオンは――
俺を真っ直ぐ狙ってきた。
レオンの姿が消えたかのように速い。
常人なら視認できない速度。
だが――音が教えてくれる。
(初速が大きい。反動が深い)
槍が目前に迫る瞬間、
俺は旋律を一段“押し下げた”。
「下降」
レオンの動作軸が一瞬だけ歪み、槍の軌道が逸れる。
そこへ――
「任せろォォォォ!!!!」
カイの剛剣が割り込む。
レオンの攻撃を受け止め、火花が散った。
同時に、左右の騎士がカイへ突撃。
レンの矢が空気も裂かず無音で飛ぶ。
【Critical ×12 → 全弾命中】
弱点を的確に穿ち、騎士が崩れる。
レイナの補正が発動。
【幸運効果:アイテム抽選 → 騎士の装備強化バフ発動】
バフのアイコンが仲間三人に乗る。
レイナ「はい味方全員強化〜!運任せじゃなくて愛情補正です〜♪」
カイ「最高だ!殴り放題じゃねぇか!!」
レン「矢が吸い込まれる……弱点が響いて見える」
レオンがわずかに笑う。
「……やはり噂通りか。
“支援職が中心”というのは真実だった」
だがすぐ、その笑顔が消える。
「だが――騎士団はまだ全力ではない」
レオンが槍を地面に突き立てる。
【王国騎士団統合戦術:魔術同調陣】
十名の魔力が一つに重なり――
**“一個の兵器”**になる。
観客席はないのに、世界のログがざわついた。
《騎士団同調陣発動!?プレイヤー相手に!?》
《普通は魔王レイドの終盤フェーズだろ!?》
《相手は4人だぞ!?やりすぎじゃね!?》
レオンは低く宣言する。
「我らは国を守る盾。
だからこそ――強者には全力で向き合う」
熱い、まっすぐな戦う意志。
嫌悪はない。恐怖もない。
ただ純粋に“試す力”。
だから俺も、全力で応える。
「深奏」
世界が色を変えた。
十名の騎士の演算が重なり、
巨塔のような一つの旋律を奏でている。
強大、精密、欠損なし。
一つのミスもない――理想の旋律。
(なら、整えるだけだ)
俺は両手を広げ、譜面を“撫でる”。
下降。
上昇。
固定。
循環。
逆転。
五つの調律が同時に発動し、
騎士団の演算が**“最適な形”**へ仕上がる。
それは敵弱体ではない。
“味方強化”だ。
カイ、レン、レイナの動きに
騎士団の強さが綺麗に噛み合う。
カイの剣が、レオンの槍と同調し――
火花の音がまるでリズムのようになる。
レンの矢は騎士の攻撃の死角に吸い込まれる。
レイナの幸運は、不思議なほど戦闘の流れを滑らかにする。
そして俺はただ微笑んで言う。
「敵味方関係ない。
強い方が気持ちいいだろ」
レオンが眼を見開いた。
「……戦いを“奪う”のではなく……
“戦いを最高にする”調律……か」
闘技場全体に響いた。
「ならば――応えよう!!」
全ての力と、全ての技がぶつかる。
だが、調律された戦場には混乱がない。
カイが豪快に剛剣で突破し、
レオンがその軌道を受け止め、
レンが射線を制御し、
レイナが運で隙を生み、
俺が全ての意味を整える。
数分後――
空気がスッと止まった。
レオンが武器を下ろし、片膝をついた。
「――完敗だ。
これほどの戦いを“楽しみに変えた”者たちを、
我らは否定できぬ」
騎士団全員が膝を折る。
カイは満面の笑み。
「最高だったぞ!!またやろうぜ!!!」
レイナは拍手しながら跳ねる。
「騎士団さん強すぎ〜!!楽しかった〜!!」
レンは淡々と頷く。
「戦う価値があった。感謝する」
レオンは笑って言った。
「この国は――貴殿らの力を信じる。
よって、正式に依頼を発行する」
通知が開く。
【国家クエスト 第1章:影の侵攻】
《他国・影組織・プレイヤー勢力が“深淵の調律者を奪取”しようとしている》
街全体、世界全体に広報が流れる。
《調律者争奪戦イベント開始》
王が告げる。
「貴殿らを巡り、世界が動き出す。
争われ、狙われ、欺かれるだろう。
だが――それでも笑って戦え。
この王国は必ず味方する」
カイが大剣を肩に担ぐ。
「世界全部相手?いいじゃねぇか。
やろうぜリアチー」
レイナが笑う。
「大人気って嬉しいね〜!!」
レンは冷静。
「狙われるほど価値がある。それでいい」
俺は3人を見回し、言う。
「調律する。
世界が騒いでも関係ない。
俺たちが遊びたいように遊ぶ。」
3人の笑顔が返ってくる。
その瞬間、世界の空に巨大な文字が浮かんだ。
【世界規模イベント
“調律者争奪戦 — 第一幕 開始”】




