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罪と罰

作者: 楓里


真っ暗で誰もいない世界、それが今のデリアの全てで、あの日壊れてしまった身体も未だに動かないまま、ただこの何も無い世界でデリアは生かされているだけだった。

あれからあの日からどれだけの時が過ぎたのか、デリアには全くわからなかったが、いつかまたパパたちに会える日と信じてデリアは眠り続けていた。

そんなある日、デリアの真っ暗な世界に誰かが急に現れ、寝ていたはずのデリアはいつの間にか起きて、その子を見つめていた。

その子はデリアが今迄見たことの無い、彼女と同じ年頃の少年だったが、何故だかデリアにはその少年が誰だかすぐに分かった。


『イリイア…』


デリアが彼の名前を呟くと、彼は悲しそうにこちらに笑いかけてきた。


『やぁ久しぶりだね、デリア』

『……』


そう声をかけ、だんだんと彼はデリアの方に近づいてきたが、デリアは何も言うことが出来ず、その場に立ち尽くしていた。

彼はそんなデリアを悲しそうに見つめながら、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

そしてデリアのすぐそばまで来ると、優しく微笑み、デリアの頭をゆっくりと撫で始めた。


『泣かないで、デリア…』

『…ごめんなさい』

『なんで謝るの?』

『私が…わたしがあなたを…』


デリアはいつの間にか流れていた涙を拭うことも無く、唯々彼に謝り続けたが、彼はそんなデリアの様子に困ったように笑うと、デリアを優しく抱きしめた。


『デリアのせいじゃないよ』

『でも…』

『パパはそう思ってるかもしれないけどね』

『……』

『でも僕はデリアを許すよ』

『……』


そう言って彼は微笑むと、デリアが落ち着けるようにと、彼女の背中を優しく撫でた。


『あの日君は生まれ、僕は死んだ。中身は何も変わらない同じ存在のはずだったのに』

『……』

『パパは僕を見て悲しんだし、パパは生まれてきたデリアを憎んでいると思う。それでも僕は…』

『……』


彼は苦しそうに顔を歪めながら、そう話すと、ゆっくりとデリアの身体を離した。


『僕は君を許す…』

『…私は…わたしは…』

『ごめんねデリア』

『なんで謝るの?』

『パパの傷を癒そうとしてくれたのに…』

『…私じゃダメなの……』

『ダメじゃないよ』

『……』

『ずっとパパのそばにいて…そして…』

『…そして…?』

『パパを幸せにして…』


彼は悲しげに微笑みながら、デリアにそう告げると、再びデリアを抱き締めた。


『…私にはできない……』

『大丈夫…デリアなら出来るよ』

『……』

『パパもいつかは分かってくれる』

『…でも……』

『デリア…』


デリアは目から大粒の涙を流し、彼に身体を預ける形で、泣き崩れた。

彼はそんなデリアをゆっくりと座らせると、優しく背中をさすった。


『わたし…』

『……』

『……』


それからしばらく二人は黙り込んだままで、彼はデリアをなだめ続けた。

そしてようやくデリアが落ち着きを取り戻した頃、彼は急に立ち上がり、デリアから離れた。


『…イリイア?』

『もう行かなきゃ』

『…どこに?』

『カミサマの世界に』

『……』

『泣かないで、大丈夫だから』

『でも…』

『大丈夫だから』


そう言って彼はデリアの頭を優しく撫でると、デリアを立ち上がらせ、いつの間にか現れていた光の方へと向かせた。


『ほらもうデリアも行かないと』

『…行きたくない…だってライルは…私をきっと…』

『…それでも行かなくちゃ』

『…嫌』

『たとえパパがデリアを殺したとしても…それは…』

『…分かってる』

『なら』


彼がそう促すと、デリアは光の方へと歩き出した。

そしてそれを見た彼はデリアに背を向けると、その場から姿を消した。

それからしばらくデリアが歩いていくと、急に周りが明るくなり、デリアは目を覚ました。


『デリア!!』


デリアが目を覚ますと、目の前には涙を浮かばせながら嬉しそうに笑うカイルと、その後ろでホッと息を吐くライルが立っていた。

デリアは訳が分からないままに、チューブに繋がれ、思うように動かない身体をなんとか動かし、ケース越しにカイルに触れた。


『パパ?』

『デリア!!やっと…やっと…!』

『……』

『デリアごめん…こんなことにしてしまって…でも生きていてくれてよかった…』

『…パパ…無事で良かった…』

『デリアのおかげだよ。あっ今そこから出してあげるからね』


そう言うとカイルはそばにあった機械を操作し、デリアに繋がれていたチューブを外すと、デリアをケースからだし、優しく抱き締めた。


『デリア…デリア…!! 』

『パパ』


カイルに抱きしめられながらも、デリアはライルの様子が気になり、そっとライルの方を見ると、デリアに見られていることに気がついたライルは一瞬だけ顔を嫌そうに歪めたが、すぐにホッとしたような笑顔を見せると、ゆっくりとデリアの元にやってきた。

そして一瞬躊躇うような様子を見せたが、優しくデリアの頭を撫でた。

デリアはそんなライルの様子に悲しくなりながらも、なんでもない振りをして、ライルに問いかけた。


『ねぇパパ?私の事好き?』

『デリア?』

『どうしたのデリア?ライルにそんなこと…』


ライルとカイルはデリアのいきなりの問いに戸惑った様子を見せたが、デリアはただライルだけをじーっと見つめ、答えを待っていた。


『いいから答えて』

『もちろん好きに決まってるだろ?』

『……』

『デリア?』


ライルはなんでもないかのように笑顔でそう答えたが、ライルをずっと見ていたデリアには答える前に少し顔を歪めたのが見えており、その事実にデリアは傷付き、黙り込んでしまった。

急に黙り込んでしまったデリアにカイルが心配そうに声をかけたが、デリアは黙り込んだままだった。

そして困り果てたカイルが小さく溜息をつくと、デリアは急に自身を抱いていたカイルから離れ、上手く動かない足でライルの元まで歩いていくと、ライルに微笑みかけた。


『何があっても私はパパを許すわ』


デリアの言葉にライルが驚いていると、無理に動いたからなのかデリアはそのまま床に倒れ込んだ。

薄れゆく意識と霞む視界の中、驚いていたはずのライルの顔が複雑な気持ちを抱えているかのように歪められたのを見て、デリアは嬉しそうに微笑んだ。




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