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林檎の洲  作者: 牡丹座
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#2 別れ



「お前の見立ての通り……この管制室の通信機は中央の奴らとの交信に使え、なおかつもう話は進むところまで進んでる。PPW波の出力装置は王の協力を得たことでかなり広域にまで送信できるようになったし、何より王の御意思がなくては俺も踏ん切りがつかなかった」


 淡々としたジャックの口調はやはりどこか悲しそうで、それでいて覚悟の決まった者の声音をしていた。

「危険は多く、犠牲もあった末に辿り着いた結果だが……批判は受け付けるし、反対意見も受け付ける。しかしここで俺らは交渉する責任と義務がある。中央の者たちの中にはインフィスが言った通り林檎の洲を探し求めることを是とする派閥が存在する。それが俺たちにとっての救いだ……本来ならアンディアの民は悉く殲滅したところで大した問題もない弱小民族。我らを受け入れる理由もメリットも大して無い彼らにおいても、我々が林檎の洲探索の手駒になることくらいには使い道がある。だから俺はそこを突いてその林檎の洲を探索を是とするファブネル協会と交渉し、可能であればこのアンディアの民全てを抱えてもらうことも可能だって段階にまで辿り着いたんだ!」

 インフィスは構えていたリボルバーの銃口の向け先を自然とシーナからジャックに変えていた。元々拳銃の早撃ちが誰よりも得意で他の追随を許さないほどに卓越した精度を誇っているために、やろうと思えばいくらでもジャックを行動不能にすることは出来る。出来るにしても、ここは慎重に慎重を心掛けなくては誰もが不和を起こしてアンディアの実質的な崩壊を招く危険もある。

 しかし、ここで決定的な行動権と発言権が自然とジャックに集中するのは避けたいところだった。

「王や俺を含めた三十二名は既に同意の元で中央に下る準備が出来ている。アンディアの総人口は六百二十九人、この残りの五百人以上の行方をインフィス、オズ、シーナ、そしてガイン。あんたら四人に決めてもらう」

「ほぉ?決めてもらうとはなかなか悠長だな。てっきり俺に従わなきゃ全員死んでもらうぜ、ってやつかと思ったな」

「そんなことは誰も望んでない。限られた奴にしか喋ってなかったのは混乱を起こさないためだったが、中央の者が東方遠征を完結させた今、俺たちには時間がない。今、ここで、決めてもらう。だが俺たち……いや、王に付かないというのならばアンディアのその他の民の統率者は外界の探索者の長であるインフィスってことになる。少なくとも、俺はこのアンディアの為を想って自然な流れで林檎の洲の探索をはじめ、後にやむなしという形で遭遇した中央の者たちに吸収されるって筋書きを希望していた。そうすれば消えてもらうのはシーナ、反発心の塊であるお前だけで済む」

「おおっと、私はどの道殺すんかい!」

「俺だって誰も欠けずに中央に吸収されるのが最も理想的な形だって思ってるし、今でもそうしたい。だがやっぱり民族の誇りを代表した猛犬が相手じゃあ……駄目だな、どの道お前が中央に下ることはありえない。だからお前に尋ねるのはお前の部下と同士を心中させるのかどうか、ってことだ」

 インフィスは眉をひそめた。

 ジャックの先ほどからの言葉運びには聊か妙なところを感じる。

 この場での発言権を自然と獲得し、誰よりも今後の民族存亡に深く機縁を呼ぼせる立場であるのにも関わらず、この場の長たちに意見を強制することなく、まるで各機関の長たちがそれぞれ別の民族の所有者であるかのようにふるまい、自分らの部下の行く末を決定させようとしている。

 そもそもアンディアの趨勢を決定する最終的な判断をするのが王の役割、その王がこの期に及んで黙りこくっているということ自体がジャックに発言権を集中させている所以でもあるが、何分そのジャックのふるまいがアンディア全体を語る割にはあまりにも他人行儀なのだ。


「未知の旅を行ってきた探索者インフィス。自衛のためにこれまで数多くの工夫を基にアンディアを守ってきた守護者シーナ。アンディア全体の生計を測り民の暮らしを支えてきたオズ。探索により各地から獲得した情報を基に人類史を読みとかんとする知識の読解者ガイン。そして同じく探索によち各地から獲得した情報を基にこの世界の測量を担当する我ら測量班の者たち。それぞれがアンディアの民にして異なる歩みをしている懐の他銭。まったく同じ末路を望んで受け入れられるとは思ってない…」

 どうやらここではっきりした。

 ジャックは既に六十名ほどの同意を得て中央に吸収されるだけの手筈が整っているという。しかしアンディア全体にこの考え方を強制するという気はなく、それが嫌なら別の道を辿っても構わないという。だがそれは即ち、強制執行力の無い提案を反発が確定している猛獣の前で語るも同じこと。少なくともジャックはシーナが自分の意見に同調せずに攻撃の意志を向けてくることを覚悟しているのだ。

 そこでジャックがインフィスを見据えている理由は明瞭だった。

 基本的にアンディアの民の中で常時軽武装を施して行動しているのはインフィスとシーナだけ。インフィスは拳銃を基本的に二丁以上は常時身に着けているし、シーナはマチェットと呼ばれる刃物を少なくとも腰に下げた状態で暮らしている。もしシーナが何かの弾みにインフィスの眼に『間違った行動』として刃物を翳そうものなら、それを止められるのは現状インフィスただ一人なのだ。

 それはシーナも十分に理解している。早撃ちが何よりも得意なインフィスがいる室内で戦闘を起こせば間違いなく無力化ないし殺害されることも見えている。そこでシーナもまた横目でインフィスに訴えかけるような視線を向けてきている。


「馬鹿げた話だって事はわかってるさ。だが、ここで決めなきゃいけないんだ。……お前たちが俺や王と共に中央に下るのなら歓迎する。そうでない場合はここで決別だ。互いに別の道を歩むことが決定する」

「その前に私がお前を殺す。悪いが、ジャック。お前がこの話を持ち掛けた時点でアンディアの分裂は決定した。どうあっても中央に下るべきじゃない。それは確かなことだ、ましてや林檎の洲云々と語るやつに従って判断するのは明らかな悪手だろうよ……」

 シーナはやる気だった。けたたましいまでの殺気を一瞬途切れさせたかと思えば、たった二足でジャックまで詰め寄り少しその身をジャックと交錯させ方向転換を行った。動体視力に優れたインフィスはそのシーナの動きに驚嘆しながらもしっかりと目で追えており、その動きを勢いあまった際の調整の失敗による身の翻しかと思った。しかし実際には違い、シーナはその方向転換に併せて腰から小ぶりなナイフを取り出してほぼ同時にインフィスに向けて投げつけた。

「っ!?」

(まさかここまでセンスがあるとは)

 投擲されたナイフがインフィスの右手を掠め、構えていたリボルバーごと弾き飛ばした。それに彼が狼狽える間にシーナはナイフを払い飛ばした手でそのまま勢いに任せてジャックの顔を押しあげ、近くの管制機に叩きつけた。血が飛び散り、勢いで浮き上がったジャックの歪んだ顔がちらつく。彼女はさらにジャックの髪を鷲掴みにし殴りやすい姿勢に彼を起こすや否や目にも止まらぬ突きで彼の体を後方に吹き飛ばしてみせた。

「げほッ…ば…が……ァぁ」

「ひとまずこの管制室の支配権は私が貰う。PPW波を満足に更新に使える部屋はここだけだ。中央の奴らに連絡なんか死んでもさせない」

「ハぁ………ふー…ッ…まぁこうなると思ったさ」

「で、インフィス、どうする?」

「俺に振るのか?」

「仕方ないだろ。もうやっちまったんだ。私たちはついてくる奴五百人を纏めてさっさと旅にでなきゃいけねぇんだ。第二のアンディアを見繕えるのはお前だけだからな」

 冷静に、というより合理的に現状を推察するにあたり、アンディアを巻き込んだ世界の趨勢には小さからずの変化が必ず訪れる。それは確定だ。

 中央という巨大な軍事的組織が東方を侵略し、その広大な地域の支配を可能としたならばその環境に適した植民活動も行われるだろうし、民族拡大の意識など論ずるまでもなく高まる。その際に中央に衝突する諸民族は悉く淘汰され、遜る民族は中央民族に吸収統合されていくだろう。そもそも東方が具体的な地域や境界を指した言葉ではないだけに中央がどれほどの事を成してみせたのかはわかり得ないが、管制室の巨大地図をざっと眺めるだけでもかなりの領域を中央が獲得したということは言うまでもない。

 かといって人間が生命活動を存分に行えるだけの資源が十全に獲得できたというわけでもないし、そもそも中央の者たちが民族拡大を狙えば民族内の絶対人口が増えることも同時に示唆している。つまりは中央民族にまず必要とされるのは資源の供給。民族の絶対人口が増えるならばそれに見合うだけの供給力と補給線を確保する必要があるし、この世界のおいての補給線とはつまり隷属的関係となった植民地から搾り上げる資源と民族淘汰と侵略によって奪取する直接的な獲得資源。中央が東方を征服したということは彼らにはそもそも自民族のみで東方遠征を完結させるだけの機動力を提供するだけの自資源があるということで、東方遠征を完結させた今、「さぁ次だ」とどこかに狙いを定めて駒を進めるとは一言では言い切れない。

 単に東方の民が連合関係を結び、しばらくの間続いてた中央と縄張り争いをしていただけかもしれないのだ。中央に比べればそもそも脆弱な軍事力の東方の民が満足に彼らと渡り合うには団結は必須要項だろうし、他にも幾つか考えられる両者の敵対関係も考えだしたらキリがない。


「……………」

「なぁ、インフィスよぉ」

 シーナの突き刺すような視線には長々とした沈黙で応えることは賢明ではなかった。かといって、すぐさま何かをここで決断せよと迫られても、人間はそこまで都合の良い頭の造りをしているわけでもないのだ。

「ジャックに一つ訊きたい。お前、中央の奴らがこの場所にアタリを付けてるといった感じを出していたが、もう交渉やらテストが行われた段階で奴らがここに本腰を入れて攻めてくるってことは考えなかったのか?どう考えてもお前が内通者の立場をとった段階でこのアンディアの防御力も秘匿性の失墜した。のに、お前は俺を含めた四十人の探索者の帰還を待ち最後の交渉に臨んだ」


 ハンカチで顔から垂れ流れる血を拭っているジャックは草臥れた様子で言葉をかぶせる。

「悠長だって…言いたいのか…?それは…ち」

 ジャックの声にさらに重なる声音が妙に響いた。

「ええ、それは違いますねぇ」


 砂色の世界に似つかわしくない赤いトレンチコートに赤い官房。口元だけ隠すように被られた牙をモチーフにしていると思われる奇妙なガスマスクにアンディアでも使用されてる馴染みのある防塵ゴーグル。足には這った蛇のように巡った黒い鉄のワイヤーらしきものが見られる黒いカーゴパンツがなんとも形容し難い不気味さと屈強さを感じさせた。

 そんな赤みの目立つ謎の者たちが現れたのは管制塔のエレベーター付近。堂々と入ってきただろうこの赤赤しい者たちの姿を誰もすぐに察知することはなかった。それだけにあまりに不気味で、インフィスはおろかシーナでさえも即座にマチェットを引き抜いて飛び掛かろうという動作に彼女なりの焦りが滲んでいる。

 赤い男は最初は三人ほどに見えたが、実際の数は十名に及ぼうかという大所帯で、そのゆったりと接近してくる姿は不気味さを通りこした恐怖すらも植え付けられそうな気配が醸し出されていた。


「中央の民とて一枚岩というわけではありませんし、第一こんな秘境みたいな土地にアタリを付けていたとしてもおいそれと怪しげな手招きに従って人を差し向けるわけにもいきませんでしたから……」

「何者だ?」

「……………」

 赤服の者たちはぞろぞろと管制室の中央まで歩みを進め、その中の主軸と思われる人物が大胆にも雑多に散らばった管制機の上に乗りあがり、ジャックを見下ろした。そして順にこの場に集った管理者たちの顔を遠雷でも眺めるように呆けた様子で見やり、次いで言葉を発した。

「我々は中央の民の者から構成された特務機関とでも言えましょうかね。私の名はナクサトロズ。こちらに顔を並べている者たちもナクサトロズですので、まぁ組織記号とでも考えておいてください」

「ナクサ、ト?」

「ファブネル協会とはまったく異なった機関ですので当然あなた方となれ合う気はありませんし、名乗ったのは前口上を述べねば人殺しにも寝起きが悪いと思ってるタチでして、単なる趣味の一環とお考えになればよろしいかと」

 驟雨を産む曇天のように、不穏な影は突如として現れるものだと痛感させられた。

 一見したのみでは赤服の者たちは重武装を施しているようには見受けられない。特に軽機関銃系は隠し持つようでもそれなりに見定めればその有無は判別がつくため、この者たちが直ちにアンディアの責任者たちを皆殺しに出来るような存在でないということは察しがついた。

 とはいえ状況はかなり奇異かつリスキーであることは疑いようがない。いくら神出鬼没の様でこの者たちが現れたとはいえ、どうあってもここに辿り着くまでにはこのガタパ空港の至る所で往来しているアンディアの民の眼に引っかかる。となればインフィスの即興の見立てにしてもこの者たちが下層のアンディアの民を拘束なり滅裂なりしてきたことと捉えて問題はないと見えた。

「ちなみにこの管制室に至るまでにお見掛けした当民族の方々は拘束させて頂きました。我々のうちに一人でも殺処分すべきと考え至れば即座にハチの巣になって頂きますし、そもそも我々は当アンディアの民の殲滅のために参じた次第ですのでそれなりに覚悟は決めておいた方が良いと思いますよ」

 ナクサトロズは事務的な作業から解放された子供のようににこやかに微笑むと、配下の者たちに視線を配ってそれらの懐からいくつかの酒瓶や嗜好品の数々を取り出させて管制機器の上に並べさせた。

「死ぬにしてもきちんと話し合わないことにはイマイチ殺戮にも決まりが悪いのでリラックスして交渉でもしますか。まぁアンディアの統率者である貴方がたにはどの道死んでもらうと思いますが、死ぬ前におどろおどろしたまま逝くのも不憫だし精々酒くらいは奢らせて頂きますよ」

「酒の対価を死で払えってか……大した紳士どもだなァ!」

 シーナはそう猛りつつも攻撃は仕掛けない。直感的に自分が叶わないような強者だと察知したのか、恐怖や動揺といった混乱によって次の一手を逃したのかは判らない。この状況の中では今まで中央云々と口舌を垂れていたジャックでさえ言葉を失ってしまっている。

「オーロラ酒よかマシな品が揃ってると思いますよ。そうカッカせずにお好きなのをどうぞ」

 そこでインフィスがゆっくりと品々が並んだ管制機器の前に歩み寄り、いくらかそれらを見回した後に高級そうな酒の瓶を一つとパイプバックを両手に持って元の位置にまで戻った。その際に周囲のナクサトロズを注意深く観察した分析しようと試みたが、ほとんどのナクサトロズは微動だにせずに腕を組みながら佇んでおり、どうにも特徴という特徴が赤服以外に見受けられなかった。

「こいつはまた乙なパイプだな。ケツァの民の魔除けの煙草とは……」

「おやおや御目が高い」

 インフィスはそのまま滅煙けしけむりを浮かべ、1分ほどの沈黙が管制室を内包した。

「ところでナクサトロズの方々はどういう経緯でアンディアまでお越しに?」

 インフィスが口火を切る。

「んん。最も簡単な言葉で言えばアンディアの殲滅ってところでしょうか。先に言っておきますけど我々にまともな交渉を求めても詮無いことです。この『第三世界』に暮らす同士として当然の敬意は払いますが、端から我々中央の民族と対等に話し合えると思っていることが烏滸おこがましいってものです」

 ナクサトロズもまたインフィスと同じものと思われるパイプを嗜み始める。両者が何とも言えないような不和を無言ながらに漂わせていると、パイプから起こる滅紫けしむらさきもまた妙な具合に捻じれていく。

「そちらのジャックという男がファブネル協会に懸命なアプローチを仕掛けていたという情報は初期段階でナクサトロズに回って来てましてね。当然、ファブネル教会も慎重を期していろいろ嗅ぎまわったり計算を繰り返してどうにか『平和的』にあなた方の吸収を試みようとしていました。その点、ジャック君の思惑はかなり惜しいところまで到達していたと言えますね」

 ナクサトロズの口元がパイプを嗜むために牙を模したマスクから解かれた今だからこそ、彼の嘲りが滲み、愉悦にも似た笑顔が見て取れた。それが何を意味する内容を察したインフィスは肩を落として滅紫と同時に溜息を吐き出した。

「惜しかったようですがぁ、ねぇ?なんともそのジャック君の顔をぐちゃぐちゃにせんという勢いでそちらのレディが襲い掛かってましたし、このアンディアの民も中々一枚岩ではないご様子。ところが私たちにはそんなこと関係ありませんし、もしジャック君が自分に従う同士をさっさとまとめ上げてこの地を去っていれば助かったであろう命の話をしても栓無きこと……」

 実に残念、とでも言わんばかりの言い草。

「で、結局ナクサトロズの方々は何をしに来た?我々を殲滅したいのならばなぜすぐにでもそうしない?俺たちが酒瓶を空にするのを律儀に待っているつもりか」

「ふぅん」

 ナクサトロズのうちの三人ほどが懐から懐中時計を取り出して時間を確認した。

「まぁ別に待ってても構いやしませんよ。すぐに死にたいならそれもアリですが…」

「なぁ、はぐらかさないでくれよ。アンタらの目的は……」

「『デーヴァ・ラーヤの剣』」

「……デ、」

「と、ここら周辺の私的征服。その際に先住民族は淘汰し、九割九分九厘を接触から三時間以内に殺処分及び選別を完了させる。それが目的ですよ」

 ナクサトロズは立ち上がると、まだ殆ど吸い終えていないハイプを足元に落として即座に踏み砕いた。散る破片を塵芥同然に蹴り払うと、再び牙を模した見た目のマスクを装着する。

「こんなざる警備で満足してる皆様におかれては知悉している様子ではないですが……この地には第三世界においての『二捨遺宝にじゅういほう』と呼ばれるぶっとんだ軍事的財宝……つまり兵器が眠っています。それがデーヴァ・ラーヤの剣。栄えある世界級の兵器が眠ってる土地に皆さんは根を下ろしていたというわけです。よろしいか?」

「じゅうにいほう……ね。……叶うなら死ぬ前に第三世界ってものの解説も乞いたいところだが…」

「これから死ぬ皆さんには皮肉なだけですよ。そこまで野暮な紳士じゃありません」

「だろうね」

 ふふっ、と短い笑みを零した中心的なナクサとロズは指を鳴らす。と、配下の者たちは機器の上に並んでいた酒や嗜好品を片付け始める。それは愚直にもこの管制室の密かなやりとりの終焉を告げるものであり、それを皮切りにナクサトロズの面々がそれぞれハンドガンを取り出した。狭い室内であれば機関銃系は持ち込まないというのは思えば当然だったが、全員がハンドガンを持っていると認識すれば相当に絶望的な状況と断言して良かった。


「もう良いですね」

 何も良くない。

 

「人間いつか死ぬものです。遅かれ早かれ………と言っても文句はあるでしょうが…」

 そのナクサトロズもまたハンドガンを構え挙げ、銃口の先をインフィスに向けた。

「皆さんには当然私たちが悪に映るでしょう。悪魔に、災害に、糞野郎どもに映るでしょう。しかし我々にも中央民族存亡という責任があり、それを背負ってここまでやってきたんですから…」

 そして懐中時計を取り出して見やる。


「……十秒差し上げます。それきりでこの地は我ら中央の民の領土です」




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