ナイト3
クレアは戦闘の余韻に浸るとトウゴウに指示を出した。
「爺、ツクヨミの中を案内してやるのじゃ」
「承知しました」
トウゴウはクレアが見ていたモニターに向かい深々と頭を下げる。
「小僧。行くぞ」
トウゴウは俺を顎で呼ぶ。
待てよ! まだ勝負はついていない! なんて情けない事は言えない。ぐっと言葉を噛みしめる。
戦場ならとっくに死んでいるんだ。
生きる為にはもっともっと強くならなければならない。
クレアが見ていたモニターに頭を下げ、トウゴウに続く。
クレアは笑顔で俺を見送った。
……
クレアはトウゴウとk818の録画していた戦闘を再度眺める。
あやつは気づいていなかったが、爺に拳は届いていた。
また笑みがこぼれてしまうのう。
爺に傷をつけたのはz13以来じゃな。
あやつも戦場に終焉を告げるものになれるかのう……。
……
トウゴウにツクヨミについて説明を受けた。
起動要塞ツクヨミ。
イースト自治の為、ロストテクノロジーを流用した浮遊する要塞。
輝生石の光が常時、要塞を囲っているので輝生物の襲撃や空気汚染におびえることなく暮らせ、軍人と技術者の家族からなる乗組員は1万を超えるらしい。
選ばれた者の箱庭と呼べるものだろう。
まさか自分がこんなところで暮らすとは思ってもいなかった。
トウゴウは必要最低限の事を俺に伝えると技術室と書かれた部屋に案内する。
部屋の中は様々な機材と輝生具があるのだが、どれも手入れが行き届いていて清潔であった。
その中で巨大な輝生具を油まみれの服も気にせず、一心不乱に直している女がいた。
ブロンドの長い髪を三つ編みに束ね、白く美しい肌を油まみれにしている。少し垂れた大きい瞳は輝生具を真剣に見つめていた。華奢な体に見合わず、大きく豊満な胸を邪魔そうにして修理をしている様だ。
トウゴウに気づくと女は輝生具を置いて近寄ってきた。
トウゴウはぶっきらぼうに女に言う。
「修理を頼みたい」
女は驚いた様にトウゴウに尋ねる。
「トウゴウさんが修理を依頼されるなんて珍しいですね」
「わしではない。小僧の装甲を修理してほしい」
「小僧? ああ、後ろの方の?」
女は俺を見ると笑顔で挨拶をする。
「私はアイリス ベルナール。よろしくね」
俺は装甲を形成させる輝生具を外す。黒い装甲がはじけ飛び、本来の真っ白い戦闘服に戻ると頭を下げ輝生具をアイリスに差し出す。
「これですか? えっ? これって! 最新鋭のストライカーtypeⅡじゃない! この目で拝める日が来るなんて……。へえ、駆動部のパーツがtypeⅠから変わったことで光動率を高めているの? え? ちょっと待って……」
どうやら技術屋の世界に逝ってしまったようだ。
「明日、取りに行け。腕は確かだ」
そう言うとトウゴウは外に出て行ったので俺も続く。
その後、一通り、艦内を案内されると机と椅子、それにベッドしかない部屋に案内された。
「連絡があるまでこの部屋で待機」
そう言うとトウゴウは部屋から出て行った。
ベッドに横になる。
何年ぶりだろうか? こんな柔らかいものを下にして寝たのは?
落ち着くことができなかったので机で武器の整備を行い。
整備が終わると机でうつぶせになり仮眠をとった。