デモンストレーション1
「これを聞いているってことは俺はもう死んでいるんだな。本当にみんなには良くしてもらった。その恩返しができることが俺は嬉しい。死ぬ恐怖よりもそっちが勝るんだ。だから俺一人で決着をつけるよ。みんなありがとう……」
機動要塞ツクヨミのブリッジは慌ただしくなっていた。
指令席に腰かけるのはまだ10代ぐらいの豪華な装飾がされた軍服の少女。 モニターを見つめる瞳は大きく、鼻筋も整っおり唇もぷっくらとして美少女という言葉が似合う。まだ幼いにも関わらずその立ち振る舞いは気品に溢れていた。しかし、今は苛立ちを隠せず栗毛色の髪をくしゃくと掻きながら遺言動画を鬼の形相で眺める。
少女は黒刀を大切そうに抱え唇を震わせるとクルー達に向かって大声で叫ぶ。
「あのバカを迎えに行くのじゃ!」
その声にオペレーター達は必死で答えている。
女の子の後ろに控えていた眼帯の初老紳士が状況をまとめ報告をする。
「お嬢様。識別コード及び探査レーダーにもかかりません。どうやらステルスで行ったようです」
「あのバカ! どれだけ心配をかければ気が済むのじゃ?」
思えば初めて会った時もそうだった。
x年、輝生石という未知の物質を発見した人類はその無限のエネルギーを我が物とした。人が空を飛ぶ時代の始まりとも言われている。無限の可能性が輝生石には秘められていたのだ。産石国は豊かさを増し、非産石国は衰退の一途をたどるほど、世界に大きな変革をもたらしたのである。それだけであれば世の習わしであろう。だが人類は愚かであった。一つの非産石国が宣戦布告をすると世界各地で連鎖的に戦争が始まる。
x427年、輝生石戦争と呼ばれた世界大戦が勃発した。何年も続く戦争? そんなものではない。一瞬で終わるものであった。旧文明の兵器により世界は人間の手で滅んだのである。それまでどんな歴史をたどっていたのか? 今となってはその多くは分からない。人類は滅亡を逃れたが国はなく混乱を極めた。暗黒時代とも言われる人類の苦い記憶。多くの人が無意味に命を失っていた時代である。
x613年、人々は無残な世の中に終止符を打つため一つのナイツという国を作った。人種も国境もなく人々が本当の意味で笑って暮らせる国が生まれた瞬間であった。しかし理想郷は長くは続かない。
x666年、西の統治者がアームの建国と独立を宣言すると中央の統治者もそれに倣う形でスターの建国と独立を果たす、国は瞬く間に3国に分断される。そうしてまた人類は繰り返す。愚かな行いを……。
x712年、世は戦乱の時代。力が全てである。力無き者はある者に奪われ、虐げられる。いつの時代も人は人を殺し続ける。
そんな時代だからこそ独立傭兵組織ストーンズという軍事組織が生まれたのだろう。この組織は中立として傭兵の販売を生業としている。戦争孤児や貧しい家庭の子供が売られ、傭兵として育てられるのだが、販売される歳の18まで生きられるのは10%を満たない。生き残る事ができれば戦闘のスペシャリストとして各国で重宝される。ただし、よそ者として特に危険な任務につかされ20歳まで生き残るのは販売された者達のおよそ5%を満たない。彼ら、彼女らは何の為に生まれ、何の為に死ぬのだろうか?
x902年 独立傭兵組織ストーンズ管轄領
ここに立つのも今日で最後か……。5歳の頃から幾度となく戦ってきたコロシアムを見渡す。300m×300mのバトルフィールドとそれを円形に覆う観客席で構成されている。観客席は今日も満員である。満員と言ってもそこにあるのはカメラだけだ。誰かが見ている場合はランプが緑に光るので全て緑という事は満員という事だ。
準備運動を済ませ、k818と刻まれた黒い無骨な刀と黒いウエットスーツの様な装甲のチェックを行う。特に異常はない。
「k818。調子はどうだい?」
声の方に目線を映すと見知った顔がそこにはあった。白く輝く巨大な銃を軽々と持ち上げ、肌にぴったりと合った白い装甲が無駄のない体を包み込んでいる。中性的な顔立ちで一見すると女性と間違われること多いが幼少期からパートナーを務めている男だ。
「s902。問題ないよ」
「前線はいつもどおり任すよ。でも今日で君とお別れというのは心のない僕でも悲しく思うよ」
「ああ、俺もだよ」
もう少し悲しみを二人で分かち合いたかったがマイクを持ったちょび髭の男が叫ぶ。
「お待たせいたしました。各国の皆様! 本日のメインイベント! 特化型のデモンストレーションでございます。黒の近距離戦闘特化型k818、白の遠距離戦闘特化型s902対するは赤の護衛戦闘特化型d605、青の速度戦闘特化型j712です。それぞれが特化されておりますので通常の傭兵と比べて向き不向きはありますが、要望が多かった特化型になります。皆様、準備はよろしいでしょうか? それでは3、2、1、レディーファイト!」
無情にもいつもの戦闘が始まる。
プロビデンス起動。
俺の脳に直接イメージが浮かぶ。
d605の武器
武器名 レオスピリット
生産国 アーム
武器タイプ 小手
攻撃 2
補助スロット3
特殊 装甲の防御を+1する。
補助パーツ
パーツ名 ガーディアン
生産国 アーム
使用スロット数 3
消費sp 30
効果時間 5分
冷却時間 6分
防御成功時、hpを回復させる。
d605の装甲
装甲名 イージスtypeⅡ
生産国 アーム
装甲タイプ 重装
hp 450
sp 100
防御 8
速度 1
補助スロット 3
補助パーツ
パーツ名 リベンジtypeⅢ
生産国 アーム
使用スロット数 3
消費sp 30
効果時間 5分
冷却時間 7分
防御成功時相手のhpをダメージに応じて削る。
j712の武器
武器名 マクミラー
武器タイプ 狙撃銃
生産国 スター
攻撃力 7
補助スロット 3
補助パーツ
パーツ名 トリプルショット
生産国 スター
消費sp 30
冷却時間 10秒
銃装備時、弾丸を3発同時に打ち込み、威力を飛躍的に高める。
j712の装甲
装甲名 ホルスtypeⅡ
生産国 スター
装甲タイプ 空戦
hp 220
sp 300
防御 3
速度 8
特記 sp消費なしに浮遊可能。
補助スロット 4
補助パーツ
パーツ名 エルメス
生産国 スター
使用スロット数 4
効果時間 3秒
冷却時間 5秒
速度を異常に引き上げる。
ここまで1秒もかかっていない。俺の装甲補助オプションにより、敵の情報は理解できた。s902に輝生通話をする。輝生石と輝生石の通信なので声を発するよりもはるかに早く意図が伝わる。s902は青い軌跡を描きながら飛び上がるj712に弾幕を浴びせた。
j712はエルメスを使いスピードを飛躍的に高め弾幕を軽やかにかわすが、予想道理の動きである。s902は白銀に輝く銃のスコープに目を通すと狙いすましたトリプルショットを使いj712をハチの巣にする。青い装甲が砕け散り、羽がそがれた羽虫のごとく無残に落ちてくるj712。
残るはd605。スピードを犠牲に分厚く固められた装甲であるため、s902の遠距離武器では分が悪い。ここは俺が仕留めなければならない。勝たなければ俺達が廃棄される。黒刀を構えるとガチャガチャと音を立て戦闘態勢に切り替わる。刀の中央から黒い輝生石があらわになると刀身を作る。黒く濁ったまがまがしい光は思い通りの長さと幅にする事ができるが最も威力が高められる長さ100cm、幅10cmの所で維持する。
俺は地面を蹴った。
200mほどの距離を一瞬で詰める。
こちらの動きを察知したd605が防御姿勢を取ろうとするが輝生石の力が音速を超え、光速を超え、振りぬくと同時に赤い装甲はゴミくずへと変わり人であった者をただの肉塊へと変えた。