魔女集会で会いましょう
その子は事故か病気か、片目が潰れ両腕も潰れて、今にも命の火が消えようとしていた。
荒んだ薄情なこの町では誰もがその子を見て見ぬふりする中で、その魔女はその子の前で足を止めた。
「…ほう、随分あちこち足らんのだな」
子はまだ光の残っている片目で魔女を見上げた。漆黒の闇を思わせるその目からは表情が読めない。恐らくは噂の人食い魔女なのだろう。ああ、自分はいよいよ終わりなのだ、と子は覚悟を決めた。
「ふむ。ちょうど退屈していたところだ。お前を使って少し面白いことをしよう」
ぼきり
…鈍い音と共に、生暖かい液体が子の顔に当たった。
魔女は自分の腕をもぎ取って、ニヤリと笑っていた。
数年後、子は青年になっていた。
両腕は魔女の手になり、光を失った片目の代わりに漆黒の眼が入っていた。
魔女は両腕と片目を失ったが、魔力で幾らでも補えたので大して困らなかった。
だが、青年は魔女を慕い、彼女の腕の代わりに魔女を支え続けた。
「私は、お前の好きに生きていいと言ったはずだ」
と魔女が言っても
「私は、私の好きなように生きていますよ。ママ」
と笑うだけだった。
魔女は紫水晶の義眼を青年に向けて、ふん、と鼻を鳴らすだけだった。
何年もの月日が流れた。
魔女は相変わらず魔女だったが、青年は老人になっていた。
既に体は動かなくなり、いよいよ死期が近付いているのを老人は悟っていた。
「そろそろ、貴女にこの腕と眼をお返しする事が出来そうです」
老人は呟いた。
「そうか。もうそんな時が来たのか」
老人の横で、魔女は相槌を打った。
「随分楽しませて貰ったよ。腕と眼が無い不自由さというのも、なかなか面白かった」
「それは良かったです」
「餞別に、その目はくれてやろう。冥途の土産に持っていくといい。魔女の眼だ、随分と話題になろう」
「よろしいので?」
「ああ。そのかわり私も欲しいものがある」
「貴女から頂いてばかりの私に差し上げられるものがあれば、何なりと」
「なに、簡単な事だ。お前の全てだよ」
魔女はあの時と同じ眼で笑った。老人も同じ眼で、魔女に微笑み返した。
「勿論ですよ。全て差し上げます」
何年も腕が無かった人食い魔女に腕が戻ったと言う話は、魔女を知るものたちに静かに広がっていった。
魔女は時折腕に触れては、愛おしそうな表情を見せるようになった。
その魔女の片目は、以前の漆黒でも、紫水晶の義眼でもなく、黄色い金剛石になっていた。
骨は炭素が多く含まれていて、それを錬金術で石に変えると黄色い金剛石になるそうだ。
魔女と共にいた人間の墓は、何処を探しても見当たらなかったという。