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奇跡の夜はすれ違う

作者: 零時


「…しっかし、今年も二人だけとは。あんたもぼっちこじらせてるねー」

「うるせえぼっち2号。今年も勝手に押し入りやがって、いきなりドア開いたときは心臓止まるかと思ったわ」

「そういうのにときめくの? すごい趣味してるね!」

「ノックもなしに部屋に入るやつに言われたくねー!」


こたつの向こうで酒を呷りながらケラケラと笑う幼馴染。

こんなのでも普段は気さくなキャラとしてそこそこ人気らしい。

同じクラスの友人が熱弁していた、学内人気ランキングとやらの情報なので少々信憑性は怪しいが(ちなみにそいつは彼女持ちである……なにをしているんだか)

しかしその実態は見ての通りの傍若無人である。つまり腐れ縁の俺はこいつの最大の被害者である。証明終了。


「こういう日は彼女とかと過ごすもんでしょ? いないの? ねぇいないの?」

「その言葉すげえブーメラン刺さってるけど大丈夫? お前の言うところのぼっちにたかって酒飲んでるどっかのだれかさん?」

「えー誰それ? ひっどい人もいるよねー。次はカルーアちょうだい!」

「だめだこいつ話聞いてねえ」


これである。こいつはホントに精神性が成長していない。

身体の方は平均以上に成長しているくせに行動がガキのそれである。

現に今もこたつの天板をバシバシ叩いて催促している。間違っても20越えたいい大人がする行動ではない。


「はーやーくー! あたしのカルーアー!」

「うるせぇ! お前のじゃねえしここは俺の部屋だ! バシバシ叩くな!」


せっかく作ったカクテルだが、こいつは味わいもせずに胃に直行させるので俺の作業はほぼ無駄である。

用意した酒とつまみの2/3がこいつの胃袋に消えたところで時計を見ると、日付が変わるまで秒読みというところまで来ていた。

これはもう泊まりコースだろう。泊りと言っても俺の部屋をこいつが占拠して俺は別の部屋に布団を敷いて寝るのだが。

今日もそれかとため息を吐く。自分でもあまりにも色気がないと思わざるを得ない。


「なによため息なんか吐いちゃって。酒が足りないんじゃないの?」

「お前はその前に足りないものがたくさんあるだろ。胸に手を当てて考えてみろ」

「少なくともそこのボリュームは足りてると思うけど?」

「まず脳みそが足りてなかったか」

「むー? あたしより成績の悪いあんたが言う?」

「うちの大学の七不思議のひとつに入れるな。なんでこのアホが成績いいんだか」

「あたしが天才なのは当たり前でしょ!」


どや顔の幼馴染はスルーして酒を呷る。

こいつの成績がいいのは事実だがそれは人間関係には反映されていない。つまりは現状では無駄である。

実際、俺の今日の計画をことごとくつぶしていったのはこいつであるので、後悔というものをこいつがするのであれば存分にしてもらおう。


「…あー、こほん」

「? なに? 一発芸でもするの?」

「年末特番じゃねえんだよ。クリスマスだからプレゼントだよプレゼント。それ目当てで押し掛けたんだろうが」

「…!」

「……まさか、忘れてたのか?」

「まっさかぁ! ただ、いつも通りの部屋だからクリスマスってこと忘れてたのかと」

「この年で一人暮らしの部屋飾り付けるかよ……」


反応にげんなりしながらプレゼントを渡す。

小さい長方形の箱を、雑に包み紙を破いて開いていくこいつは、ほんとにデリカシーとかいうのをどっかにおいてきたに違いない。

こういうのは普通女が男に目くじらを立てるものだろうに。

開いた包みの中には、メッセージカードと黒づくめの箱。

こういう場で開かれることを想定していなかったのでひどく場違いである。


「……これ、なに?」

「…カードを見ろ」


カードには、こっ恥ずかしいセリフが数行つらつらと続いた後に、目の前の女の名前で終わっているどう見ても告白の文としか見れないものが少々。

とどめに箱の中身はシンプルながらもそこそこのお値段の有名なペアリングの片割れ。

とどのつまり、こいつ宛のクリスマスらしいプレゼントである。

場所が薄汚れた一人暮らしの男の部屋でなく、渡されたやつがほぼ部屋着の女でなければなにも不思議ではなかっただろう。


「……」

「まったく…せっかく高いレストランに連れていこうと思った途端に押し掛けてくるとは、俺もまだまだ読みが甘かったよ。おかげで雰囲気もなにもあったもんじゃねぇ」

「…はぁ、なんだ。無駄な心配だったわけか…」

「? なにが?」

「最近やたらとバイトして金貯めてたから、てっきりクリスマスに誰かに告白するもんだと…」

「…それであんな時間に押し掛けたのか?」

「ま、杞憂だったみたいだけどね。無駄になんなくてよかったし」


そういうと、こいつは来た時に部屋の隅に投げだして今まで全く触れていなかったバックから包みを取り出した。


「…はい、プレゼント。たぶんあんたが思ってる通りよ」

「……お前な、こういうのはあるなら言えよ。いろいろ計画が台無しだ」

「その言葉そのまま返すわ。せっかくの記念日が台無しじゃない」


顔を赤くしながらもいつも通りの悪態をつくこいつを見ていると、なんだか今日まで気張って考えてたのがばからしく思えてきた。

…ま、これはこれで俺たちらしくていいか。


「…じゃ、まあこれからもよろしく」

「…よろしく。あたしの彼氏とか、ぼっちのあんたにはもったいないんだから、大切にしないと許さないから」


珍しく照れたようにそっぽを向きながら言う言葉の返事は、無言の抱擁で。

これまでとこれからに、少しだけ変化が起きた。そんな奇跡の夜の話。



――――――――――

*おまけ



「…気抜けたら眠くなってきた」

「文句言いたいけど、俺も…」

「……一緒に寝る?」

「…布団いつもみたいに別の部屋に敷いちまったよ」

「…ホントあんたって…」

「こればかりは反論させてくれ。そんな期待して布団敷いてたらアホ通り越して変態だ!」

「……はやく持ってきなさいよ」

「…それは期待しても?」

「わかってんのに聞くのはどうなの?」


…少し以上に変化が起きる夜になりそうだ。


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