学校のマドンナ 3
しかし困ったな、とミリアは考える
実はこの1年、騙し騙しミリアはやってきたが実は魔術師としての素養は完全にゼロ
「どうすんのさミリー」
「どうしましょう。別に辞めてしまっても良いのですが。昨年もほとんど来てませんでしたし」
本人の言う通りミリア・レイドルと言う女性は先天的に魔術を使えない。
代わりに身体能力が常人の数倍高く、最も近い地属性の魔術師見習いとして留学してきた事になっている。
「駄目、ちゃんと通ってもらいます」
「でも別にこんなとこ来たって…「川元君が悲しみますよ?」
「勉学に励みます」
鶴の一声とはよく言ったものでミリアは由美に逆らえない
別に反論する事は可能だが何故か頭が上がらない友人となっている
だが力強く答えたもののミリアの声音はいくらか暗い
「何のために彼がここに一緒に来ようって言ったか分かってる?色んな人と関わって欲しかったから、だから一緒に通おうって言ってたじゃない。退学なんて以ての外です」
普段の優しい目付きとは打って変わって鋭い視線を向けながらも椅子に座るミリアの桃色の髪をふわりと撫でる
「一緒にお昼ご飯食べる友達がいなくなると私も美空も寂しいの。だからね?頑張ろうよ」
そう言いながらミリアの前髪をかき分けて茶色のヘアピンで留める。翡翠色の瞳にはウルウルと涙が溢れ今にも零れそうな時ポフッと由美のお腹に抱きしめられミリアもそれに返しながら小さくうーうーと唸っている
「春休みの間に私と美空も修行詰んだし少しは強くなったよ?また同じクラスになれるよう頑張ろうね」
「やるならやっぱり1番を目指したいしね」
小さな拳を握りしめながら美空もミリアを励ます
そんな3人のやり取りをクラスの男子生徒はチラチラと盗み見ては今日も気の抜けたにやけ面を浮かべる
「レイドルさんは今日も可愛いなぁ…」
「でも彼氏いるらしいぜ?」
「せめてもう少し胸が大きければ…!」
今朝のラブレターもあるようにこのミリア、とにかくモテる
外国からの留学と言うだけでも珍しいのに桃色の髪と翡翠の瞳
入学当初は抜け殻のように無気力無感動であったが半年ほど経った頃から少しずつ笑顔が覗き、一目惚れする生徒が現れ始め、ついに1月ファンクラブが出来たらしい
と、教室の隅でさっそく寝ている岩村からの情報だった
「じゃあもう少し頑張るです…」
溢れる寸前の涙を指で拭うとミリアは儚い笑顔を見せる
何名かの男子生徒がハァンと気色悪い声をあげながら見守っていると、教室の引き戸がそろそろと開いた
「おーい…言い忘れた事がひとつあったわ」
佐久間である。
ツンツン頭と眉間ぐらいまでを教室内に入れながら中を伺うように侵入してくる
「別にさ、重要じゃねぇよ?重要じゃねぇけど一応な?」
勿体つけた前振りに今度は何だよと言わんばかりの生徒たち
半分ぐらいは無視を決め込んでいるし耳を傾ける態度はとっていないが
「三階の東側の男子トイレな。火災警報器新しくなったから。ちょっとの煙でもめちゃくちゃ反応するから。以上!」
ピタリ、と数名の生徒が動きを止める
佐久間はそれだけ伝えると再び教室から消えていった
時刻は8時50分
一部生徒達の朝の一服は阻止されることとなった