風紀を乱す者
「泡野、お前なー……もう勧誘活動はやめてくれ、はっきり言って皆の迷惑なんだ」
朝、毎日毎日行い続けていた勧誘をついに教師に止められて、只今職員室の隅っこにて説教受けている最中。とうとう捕まった、いや良く今まで続いたものだ。
「これは俺に課せられた使命なんだ、そう簡単にやめるわけにはいかない。突き進む俺を止めないでくれ先生」
アホは親指を立て自分を差しポーズを決めた。妙にかっこ良くウザイな。まじで気違いだろ。アホを説教する男性教員はアホの肩に両手を置き、ゆっくりと首を横に振る。
「諦めろ」
説教では無く説得だな、アホに対し憐みの表情を浮かべる。
「そうですね、登校時は諦めて下校時にします、それでは」
「おい待て……」
聞く耳持たず……。アホに意思を伝えることほど高レベルなミッションは無い、と言っても過言では無い。既に去ったアホに向け伸ばした右手が空しい。ちなみにこの教員はアホのクラスの担任である、すなわちまたすぐ後に朝のホームルームで否でも遭遇する。
「俺はあんなのを相手にしないといけないのか……」
ご愁傷様……。
基本的に何事も無く時は過ぎていき下校の時間となった。さようならを合唱し優次とアホのやり取り。
「っしゃあ、部活動頑張りますかな」
「いやお前まだ学校が認めてないだろ」
「今の野球部の活動は仲間を作る事だ」
「それは部活動じゃない」
「そんなに細かいこと言ってたら数本毛が抜けるやん」
「言うが言わんが誰でも抜けるぞ」
「じゃあ目まぐるしくで」
「それは困るな」
「だろ〜じゃあ行ってくるぜい」
「ああ行け、めんどいから」
アホは脱兎の如く駆け抜ける。扉を抜け……れず。急に閉まった扉に衝突しけたたましい轟音が周囲に轟く。だがアホをなめてはいけない。常人ならぶつかれば後ろに倒れるのものだが
アホは突き抜けて行った。扉にはアホのシルエットが浮き出た大穴がぽっかりと空いている。足音が小さくなっていく。アホはもうどっか行った……。
「お前は昭和のギャグ漫画の主人公か……」
教室一人となった優次はアホに向けぼそりとつっこむ。誰か居る訳でも無い、意味も無い、だがついそうつっこんでしまう気持ちは分からなくも無い。
全校生徒は下校真っ只中、西門には例の如くアホがいる。人の波の中にアホを中心に直径3メートル以内、人は一切存在しない。まさにミステリーサークル。アホが動けばミステリサークルも綺麗に維持したまま動く。ある意味奇跡に等しい芸当だ。
「俺の話聞いてくれよぉ〜〜ねえってばぁ〜〜」
全ての人は目を合わさぬようよそを向き、中には耳をふさぐ者も居る。アホの存在はもはや公害と呼んでもいいくらいであるな。
「皆ぁ〜〜照れるなよぉ〜〜」
なんかこんな妖怪が居たような気がする……。そう思えるくらいキモイ、つーか恐い。にやけ面がより人々の恐怖をそそり周りからは「あぶないひとだー」「見ちゃだめよ……」「あれマジキモいんだけど〜↑」「人の行動パターンにかけ離れた行為ですね」「我々が思うに麻薬の使用により人格の崩壊が進み、理性の喪失すなわち社会性の欠如があのような行動を起こすに違いない。掛け替えのない平和のために我々はあのようなモンスターを一体も残らず抹殺しなければならない。この事態を……」
一人だけやけに喋るな、おい。どうでもいいが大層なこと口走って起きながら結局もう門の外じゃねえか。つーかお前のその油に満ち溢れた体とぶつぶつでぐちゃぐちゃの顔のほうがモンスターだろうが、正直アホのほうがまだマシだ。おっと、通行人に構ってる場合では無いな、アホ(モンスター)に話を戻そう。
「………」
喋ろ!いつの間にか冷めている、バテたなこいつ。ここで奇跡のミステリーサークルを乱す者が一人現れた。……女子だ。
「ちょっと!あなたいい加減やめなさい!ほかの生徒に迷惑でしょ!」
「あ、あんただれ?」
「風紀の者です!」
後方からまた一人登場、今度は男子だ。
「部員募集活動期間は既に終了の筈、直ちに活動を止め引き返しなさい。従わない場合、風紀委員会の手によりあなたを強制的に排除します」
「お、おっかねえ」
「どう!今すぐやめる気なった!?」
「どう……?」
「葛西君、このボウズ頭やっちゃって!」
「承知」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……ぶぎゃあぁぁぁ!!」
後方からさらに五人、刺客が登場。アホは担がれ持ってかれた……。
生徒指導室にて。
「ぷぎゃあああ!!」
まだ暴れている、かれこれもう五分この状態。
「あんた、諦めって言葉知らないの?」
「ぶぶぎゃぁぁぁ!!」
「……誰か、これ黙らせて……」
「承知した」
見事な手際でアホの五体全て椅子に縛り付け更にさるぐつわで口をぎっちぎちに塞ぐ。
「むぐ〜〜〜むぐう〜〜〜!」
さすがに動けんわな……。
「ナイスよ葛西君」
「姫、御褒めの言葉有難う御座います」
「ではあなたの処分はと……野球部の設立を諦めて頂くまで、当分の間は登校前の朝と放課後は校内の清掃及び風紀委員会の雑用を命じます」
アホは首を振る、物凄く振る、で、椅子ごと倒れる、尚も振る。
「あなたに拒否権はありません、では明日早朝の五時、生徒指導室まで。あ、そうそう、あなたがもし素直に従わない場合、きっつ〜〜いお仕置きが待ってますので……よろしくて?」
アホが床でもがく中、風紀委員を名乗る女子は話を続ける。
「ま、あなたがあれほど生徒のみなさんにご迷惑かけたのだからこれぐらいの仕打ちは当然よね、自業自得よ。じゃ、私はこれで」
それで女子は立ち去り、葛西君?と一対一の状態に。
「むぐぅぅ…………」
へこむアホ。
「君が迷惑なのは否めない、大人しく従ったほうのが身のためだな」
しゃがんでアホを見下ろす葛西君。
「………」
とうとう何も声を発さなくなったか。と、突然生徒指導室の扉が開いた!!
「大丈夫か泡野君!!」
江夏茂、颯爽と登場。中にいた二人は目が点に。すでにさるぐつわは葛西君の手によって外されアホの身を解放しようとしていたころだった、と言うことはだ。まあ何て言うか……タイミング的には時すでに遅しと。
「遅ぇよ……」
アホは小声でひっそりと一人ぼやいた。葛西君は作業を終え「失礼」と言ってこの場から立ち去る。
「あ、あれえ?……もしかしてもう終わった?」
今回の野球部入部者 0
未だにメンバーはアホ1名のみ
この話はあくまで野球部設立に燃えるアホの話であって基本的に野球の話では無い、そこところ勘違いの無いように。