アホ
「ヘイ・ユぅ?うちにはいらな〜〜〜ぁい?」
桜が散り始めている今日この頃。校門で一人、やってくる人全員、片っ端から声を掛けまくっている男。こいつは泡野尋伸15才。独身。野球同好会の会長である。頭が五厘の丸坊主。胸に「野九やろうぜ!!!!!!!!」と書かれたプラカードをぶら下げ、きもい。あと、動きもややきもい。今日ですでに三日目。西門と東門とで学校に入る場所が分かれているのだが、日が経つにつれ、彼が勧誘を行っている東門に来る人数が確実に減っている。やはり、きもいからなのだろうか。こいつが。
「場所が悪いな、明日は西門でやるか!!」
無駄と言う事に気付け尋伸。次は西門で過疎化が始まるぞ。こいつには諦めるという手段は存在しないのだろうか。そして尋伸はチャイムが鳴った後も、「ロスタイムだっ!!」と叫び、10分ほど東門に立ち続け、遅刻した。あほだ。
さて、舞台は1−4の教室に移るぞ。クラス内の朝の集会も終わり、ちょっとした雑談タイムが始まる。
「どうだったよ、今日の成果は?」
前の席から、尋伸に勇敢にも話しかける男、赤坂優次。誰にでも気さくに話しかけるナイスガイな奴。そんなにいい奴ならお前が同好会に入ってやれ。帰宅部なのだから。
「そりゃもう大勢押し寄せてきて大変大変。もてる男はつらいぜ」
勘違いも甚だしい。いやおうにも生徒諸君は登校しないといけないのだから。来る人数が多いのは当然だ。此処まで来るとかなりウザイ。
「お前のために来てる奴なんか一人もおらんだろーが。あほ」
はい、その通り。ナイスです。あほと言ったと同時にどついたとこはエクセレントです。ただ副作用が気になる。さらにアホになっては手に負えないだろうから。殴るのはほどほどにな。
そして昼飯の時間になる。このあほにはまだ友と呼べる存在は赤坂ぐらいで。屋上でロンリー弁当をしていた。ちなみに赤坂は1−4教室中央らへんで、4、5人の男子生徒と昼飯していた。尋伸は以外に人見知りなのだ。朝はあんなことしてるくせに。厄介な奴だ。
「うさぎは寂しいと死んじゃうんだぜ〜」
知るか。ドアホ。鼻をひくひくさせるな。一人で言ってる時点で寂し過ぎだろ。あと、前歯を出すな。お前はうさぎじゃない。うさぎに失礼だろうが。一生、一人がお似合いなのだ。いい加減慣れろ。
しかし、このアホを訪ねる者が屋上に現れた。
「君が泡野君かい?」
背筋がすらりと伸び、顔立ちもいい。明らかに尋伸とは別次元に生けし者だ。彼の周りだけやけに爽やかな風が吹いている、様な気がしないでも無い。おいアホ。お前も爽やかに返してみろ。
「違います」
真顔で思いっきり嘘をつきやがった。全校生徒の中で泡野はお前しかおらん。こいつ、ビビってるな。口がプルプルしてやがる。こいつも自分とは種類が違うってことを感じ取ってるらしい。アホなりの警戒。無駄だな。
「いや、君だ」
「違います」
「君だ」
「違います」
「泡野君だろ?」
「違います」
「ここに“やきゅう”と漢字で書いてくれ」
アホは“野九”と紙に書いた。
「……君だろ」
「違います」
「君、名簿番号いくつだ」
「2番です」
「1番は?」
「赤坂です」
「3番は?」
「石川です」
「2番は?」
「僕です」
「君、泡野君だろ?」
「違います」
いい加減、認めろ。もう無理があるだろ。
「わかった。野球同好会に入れてもらおうと思ったのだけど……諦めよう」
「一年四組、泡野尋伸です。よろしく」
こいつ、さっきまでの態度はどうした?今すぐ殴れるなら、ぶっ倒れるまで殴ってやりたい。恐らく、この爽やかクンもキレてしまうだろう。
「ははっおもしろいな。君は。僕は2−4の江夏茂っていうんだ。よろしく」
君は見た目よくて、性格もいいのか。それはそれで、ムカつく。一応、握手はしたが、どうでる?このアホが爽やかクンにこのまま引き下がるわけないであろう。
「それで僕は入れてもらえるんだよね?」
「うーん……」
「駄目かい?」
「弁当たべた?」
我が道行くアホ。
「え?ああ…実はまだ何だ。ほら」
茂の弁当。普通の弁当。つっこみどころなく、つまらん。二段になっており、ご飯とおかずに分かれており、おかずは普通。説明はいらんだろ。それに比べて、アホは。日の丸。このご時世に日の丸。切ねえ。何より似合うからより可哀相だ。同情しよう。
「……何か一つ、好きな物取りなよ」
くそっ。なんていいやつだ。アホにおかずの入ったほうの弁当を差しだす。から揚げだな。確実に鳥の唐揚げを取るな。超絶に見てるからな。涎出とる。犬かお前は。
「いただきます」
予想通りだ。取った。唐揚げ。プライドと言うものを持っとらんのか。
「うまい。ところで君、カノジョ、いる?」
初対面に聞くな馬鹿。
「え…………実は……」
「いるんだ…ちくしょーーーー!!」
逃げた。ある意味、食い逃げ。その後を茂は追うのだが間に合わず、止めることが出来なかった。逃げ足だけは速い。
いきなり翌日の昼飯時間となる。
このアホは性懲りもなく屋上へやって来たが、今日に限って先客がいた。誰かは容易に予想出来るな。先に居た茂の姿を見てアホは、逃げた。またかい。
「ちょっと待ってくれ!」
アホは消えた。と思ったら階段でこけただけだ。踊り場でうめき声を上げ、芋虫の如くうずくまっている。茂が近寄る。止めをさせ。やれ。
と思ったら、また別の存在が昇って来た。女子だ。
「しげ君、こんなとこに居たっ!!」
この言葉から茂とは親しい人物だと思われる。ということは、だ。
「ぶひゃあぁぁぁ!!」
いきなりアホが奇声を発し、顔のあらゆる穴から液体をまき散らし始めた。現れた女子を指差し、顔をまじまじ見て、茂の顔見て。
「ぶひゃあぁぁぁ!!!!」
一段と奇声がでかくなった。二人は珍獣を見てるような気分に違いない。で、逃げた。アホが。
「なに?あれ?」
「き、気にしなくていいよ」
アホとかかわってしまった事に心からご愁傷様。
そして今の出来事から5分経ち、1−4の教室にて。
突如、教室の片隅に現れたトワイライトゾーン。その中心にはアホ。この異様な空間に誰も近寄ろうとしない。
「何だよ、あれ。何か恐ーよ。優次、行け」
「嫌に決まっとるだろーが!だったらお前行け!」
同級生A君に命令されるが断る優次。あの不気味な空間に近寄りたくないのはわかるが、残念ながら、
「あっ!お茶ねえ!」
お茶は自分の席の机の上。ってな事はアホ前。あの薄暗な空間に突入するしかない。どちらにしろ、この時間が終われば入る、いや、訂正。浸ることになる。もう仕方がない優次は腹をくくった。
「ほら、早く行け」
催促するA君。お前少しだまれ。
優次のお茶救出ミッション開始。異次元空間突入まであと、3歩、2歩、1歩、0。
「ぶひゃあぁぁ…………」
「!!!」
はい、残念でした、と。完全に学ラン掴まれて脱出不可能。もうこうなった以上は諦めるしかない。
「……泡野、何かあったのか?」
しぶしぶだな。わかるけど。
「赤坂はいるのか?カノジョ」
やっぱまだ引きずってんのか、こいつ。また聞き出しやがった。惨めだ。とても惨めだ。
「ああ……いるな。(小声になり)ちなみに5人な」
すげ。
「おおおおお!!くれ!!わけてくれ!!」
ゲス。
「やれるわけねーだろ馬鹿が!!」「ぐばあ!!」
そら殴られるだろ。プライド無しのアホ。もう最悪だな。このまま腐って行くがいい。
<コーンコンコーーーーンコン>
「ぬお!?弁当食ってねえ!先公来る前に……」
<ギィィィ…………>
「うひゃあぁぁ!!来たぁぁ!!」
ざまあみろ、あほ。ってか何故この教室はトイレ見たいなドアなんだ?以外にマッチしてるな。
始まりの儀式を終え、授業へ入るわけだが、
「何食ってるんでおじゃるか!!」
「うひゃあぁぁ!!お許しを〜〜〜!!」
没収。プラスチックの容器だから、あれごと処分だな。5分の4は残っていたがな。欠けた日の丸が屑かごへ。なにか物悲しいかな。……何でもねえよ。
授業が一つ終わり、アホのノート、数ページ無くなっていた。山羊なアホさん、書かずに食べた。
「おれはベジタリーなのさ」
知るか、アホが。んなもん食うなっての。日頃から野草を食ってそうではあるがな。
今回の野球同好会 加入者0
現在のメンバーはアホ1名のみ。
そういえば、いくら同好会でも顧問は必要だよな。もう居るのか。どうせアホの事だ、気づいとらんな。