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黒蝶の騎士【完結】

作者: 東雲 皓月

 


……ここは、いったいどこなの?周りを見ても何も無いし、ただあるのは大空と草原だけ


歩いても全然進まないし……


どうなっているの?



彼女は一人、草原の上で立っていた



「…華蘭。”また“来たのか」


「また?」



彼女は首を傾げた


自分は前にもここに来たのだろうかと


けれど来た覚えが無い……ハズ



この声…誰だったかしら?会った事、あるのかしら


知らない筈なのに…だけどどこかで、聴いたような……”懐かしい“と思ってしまうのは…何故かしら?



「…………」


「ねぇ、どこに居るの?」



周りを見渡しても、その”聞き慣れた“声の主はどこにもいない


次第に不安な気持ちになり、彼女はあちこちを歩き廻る



「…大丈夫だ。俺はいつでも、お前の側にある」



彼の声は、とても優しくて暖かいモノだった


まるで彼女を安心させるように…


彼女は歩き廻るのを止めて、彼に聞いてみた



「貴方の、名前は何?」


「…”また“、俺に同じ事を聞くんだな…」



彼はとても悲しそうに、そう応えた


その時だった


大空と草原が渦のように歪みだし,一色の白い空間に変わった


そして、今度は声誰の目の前に幾つもの黒い蝶が現れたのだ



「華蘭、”次“はお前の番だ」


「…え?」


「俺の名を呼べ。お前は俺を”知っている“」



幾つもの黒い蝶の方から、さっきまで聞いていた声がした


彼女はその蝶をただ見つめる事しか出来なかった



「……貴方は、いったい…」


「ああ、もう時間だ。もう”こっち“には来るなよ?華蘭」



彼はそう言うと、何故か彼女の髪がフワリと優しい風でなびいた


まるで彼女の髪を彼が”触った“ような…



「待って!私にとって貴方は、なんなの」


「それは、俺じゃなくてお前の”心“が知っている筈だ」



その言葉を最後に、幾つもの黒い蝶は消えて彼女は現実世界へと戻ったのである


目を開けると、そこは彼女の部屋だった


彼女は小さく息を吐くとベッドの上に座った



「……なんだか、懐かしいような夢を見た気がするわ」



さっきの夢を、彼女は覚えてはいなかった



 

その後、彼女は学校へと向かった


いつもの学校


いつもの教室


いつも通りの日々


そう、思っていた



「なぁなぁ、知ってるか?あの噂」



自分の席へと座った彼女の耳に、クラスメートの男子生徒が友達であろうもう一人の男子生徒と話をしていた



「”黒蝶の騎士“が夢の中で現れたら不幸になるってヤツ?」


「そうそう!」


「でも、ただの噂だろ?」



男子生徒達の会話を聞いた瞬間



ドクンッ



と、心臓が反応した



……何?どうしたのかしら?



彼女は訳が分からないというように胸を押さえた



「だよなぁ。そもそも記憶に残らないらしいし」


「あー…アレ?でも、じゃあ何で噂になってんだ?」


「さぁ?なんでだろ」



そこまで話すと、男子生徒はそれっきり”黒蝶の騎士“の話をしなくなった


けれど、彼女の頭からはその言葉が消えずにいた



……”何か“を忘れている気がする



彼女は、記憶の違和感に頭を悩ました


放課後になっても、その事ばかりが頭から離れずにいる


しかし、考えれば考える程


頭痛が邪魔をして思い出せない


すると、彼女の目の前を黒い蝶が通り過ぎるのがみえた


今は真冬にも近い冬の季節


なのに今、目の前で蝶が飛んでいる



…おかしいわ。蝶が飛んでいるなんて



そして彼女は無意識に黒い蝶を追いかけた


学校を出て、人気のない森の奥へと進んでいく黒い蝶


それを必死に追いかける彼女



「待って…どこまで行くの?」



ある程度の距離を保ちながら飛んでいる黒い蝶に聞いても、その応えは返ってくる筈もなく


ただ彼女は黒い蝶について行くことしか出来なかった


すると、目的地に着いたのか

黒い蝶の進みが止まった


彼女もやっとの思いで黒い蝶に追いついた


息を整えて前を向くと、驚くべき光景が広がっていた



「……どうして、向日葵が…?」



それは、辺り一面の向日葵が咲いていたことだった


まるでそう、ここだけが夏にでもなったかのような錯覚をするくらいに


けれど、驚くべきことはまだあった


この向日葵は彼女が最も好きな花だったからだ



「……どうして、私の好きな花が分かったの?」



彼女は誰に問うでもなく、無意識に言葉にし無意識に喜んでいた



───覚えていてくれたのね。私の好きな花…



けれどそこで疑問になった



「…私は、これを知っている……?」



彼女は必死に記憶を辿った


頭痛にも邪魔をされながらも、彼女は思い出さなければならなかった



ドクンッ



ドクンッ



ドクンッ



心臓が高鳴る


そしてやっとの思いで、彼女は思い出したのだ



「…ああ、私は…どうして忘れてしまっていたのかしら!」



全てを思い出した彼女の目には、沢山の涙が溢れていた



「”黒蝶の騎士“……私のナイト」



彼女の言葉で一瞬にして現れたのは、彼女が愛してやまない彼の姿だった



「やっと、俺を呼んだな」


「ナイトっ私、私…貴方を忘れていたなんて…っ!」


「そう泣かないでくれ。俺がお前の涙に弱いのは知っているだろう?華蘭」



二人はやっとの再会を果たしたのだ

お互いを求め、強く強く抱きしめた


恋人同士だった二人の愛が、再び結ばれた瞬間


彼女は心を氷のようにされ、彼との一緒に過ごした時間を全て忘れてしまっていた


それが今、溶けたのだ



「ナイト、今までごめんなさい……私は貴方を傷つけてしまったっ」


「気にするな、華蘭」


「…でも、貴方が諦めずにいてくれた事に私は感謝しているの。そうでなかったら今頃、まだ思い出せなかったもの」



彼女はそう言って、ギュッと更に強く抱きしめた


存在を確かめるように



「…俺はもう、お前を離さない。二度とこの手から離すものか」


「私もよ、ナイト。誰よりも愛しいナイト」


「ああ、これからはずっと一緒だ」



お互いに顔を離して見つめ合う


そして、触れるだけのキスをする



「……私はもう、二度と貴方を忘れない。愛しているわ、誰よりも貴方を」


「俺の方が何十倍も愛しているぞ。華蘭には負けないくらいに」



彼女は分かっていた


彼が自分を誰よりも一番に愛してくれているのを


ここにある一面の向日葵が彼からの贈り物だということも分かって


更に嬉しかった


また彼と一緒に居られる


それが何よりも嬉しかった



「華蘭。お前を幸せにしてみせる」


「違うわ、ナイト。私はもうとっても幸せよ?だって、貴方が側に居るんだもの」



二人は再び、互いの唇を重ねて今の幸せを噛みしめていた












──これからは、ずっと一緒よ──











-完-

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