表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/46

一話

 月曜日、長旅で疲れた体は寝ただけでは回復せず、眠気を抱いたまま放課後までなんとか耐えしのいだ。できることならば真っ直ぐ帰りたいのだが、園継先輩から報告せよとの催促が中林を通じて来てしまった。

 小会議室に入る。いつも通り上座に座る先輩が俺に気がついた。舞や中林はまだ来ていないようだ。

「歌を聞いて人が死ぬというのは勘違いだと思われます。大方、自殺者の音楽プレイヤーやらにこの曲が入っていて、それが偶然にも複数人いただけの事でしょう」

「そうだろうとは思っていたが、拍子抜けだな」

 思っていたならそれで良かっただろう。眠気は横暴な思考を誘う。

「園継先輩、あんた最初から付いて来る気はなかったでしょう」

「バレたか」

「当たり前です」

 むしろ解らないと踏んでいたのだろうか?

「まあ、なんだ。親睦を深めるには良い機会だったろう?」

 苦し紛れの言い訳にしては随分と小綺麗な内容にしたものだ。

「親睦を深めるなんて、今更な話ですね」

 個人的にはそう毒づいて帰ろうと思っていたのだが、予想外に先輩からの返しがあった。

「だったら、お前は諌野と話せるか?」

 言い方が妙だと感じた。お前“は”? まるで俺以外には普通に話すような言い回しではないか。記憶違いでも大袈裟に言うわけでもなく、俺は舞が喋っている所など見たことがない。

「先輩は……舞と話をするんですか?」

 先輩はその問いに答えず、ただ一言呟いた。

「舞、か……」

 わずかでも耳に届いたその言葉を最後に先輩は考え事に集中し始めた。


 一度先輩が考え込むと、どれだけ呼び掛けても反応しなくなる。以前用件があったとき、その状態の先輩に何度も声を掛けたら理不尽に怒られたので、もう相手にしないことにしている。なのでさっさと自分の暮らす寮に引き上げた。

 部屋に戻ってからはバッグを邪魔にならない所に置いて……暇になった。無趣味は不便だ。一人でいると暇を持て余すし、趣味を持とうにもそこまで熱中するものに出会えない。本棚に小説がいくつかあるが、全て読み終えているし読み返そうとも思わない。

 というかそもそもこの文庫本も人から借りたものだ。かなり偏っていて、ミステリーしかなく、その人の好みがありありとわかる本棚になっている。

 もう読み終えた本をパラパラとページを捲り、本棚に戻す。これを三冊ほど繰り返すと溜め息が自然と漏れた。退屈は人を殺すと、どこかで聞いた言葉が頭に浮かんだ。今はその重みがよく理解できる。こういう時は上秋の部屋に行くと良い退屈しのぎになる。

 

 制服のまま隣の部屋に行く。扉をノックすると、中から不機嫌そうな返事が聞こえた。

「……なんだ、砂波か」

 中に入れてもらう。部屋の造りは同じだが、物量がそう感じさせない。大量のゲーム機と雑誌が部屋を占領していた。いつもはある程度片付いているのだが、今日は大分散乱している。足にコツンと何かが当たったので拾ってみると、握りやすく工夫された木製のパーツだ。こんなよく判らない物まで落ちている。

「散らかってるな」

「久し振りにやろうと思ったゲームがさ、入れ物の奥の方にあったんだよ。上から順に取り出していって、気づいたらこの有様さ」

 その入れ物であるボロボロのダンボールは畳まれて壁に立てかけてある。

「あちこちが破れてね。明日にでもスーパーで貰ってこようと思ってるんだ」

「じゃあ今日はこの状態で寝るのか?」

 明らかに布団を敷くスペースはない。

「オレを舐めるなよ?」

 誇るなよ。それに今日ダンボールを取りに行けばいいだろうに。

「どうせ暇つぶしに来てんだろ? なら少し手伝ってほしいんだけど……」

 その前置きで嫌な予感がした。部屋の片付けをしてくれとか、代わりにダンボールを貰ってこいというような内容ではないだろうかと。

「実は今やってるゲームが謎解き系で、さっぱり解らないんだ。お願い! 得意だろ? こういうの」

 そういえばコイツはこういう奴だった。集中してる最中に邪魔されたから少し不機嫌な返事だったのかと理解した。

「いいだろう。どんな問題だ?」

 座る場所を確保してから、問題に取り組んだ。


 帰る頃には夜十時になっていた。謎解きゲームと聞いていたが、ナゾナゾのような問題から普通の数学の問題まで解いて行き、最終的には世界の危機を救うという突拍子のない上に話に置いて行かれるストーリーだった。

 今になって上秋がすぐにダンボールを取りに行かない理由がわかった。プレイしていたゲームは、かなりぶっ飛んだ内容だったものの引き込まれるストーリーだった。飽きっぽい俺でも最後までやっていたほどに熱中した。かといって、ゲームを趣味にしようとは全く考えないが。


 自分の殺風景な部屋を見て、小物くらいは置こうかなと考える。近所にあまり栄えていない商店街があるので、後で上秋や中林を誘って行こう。

 日記帳と書かれているノートを机に広げてペンを持つ。園継先輩が考えたことでも書いてみようか。いや、特に意味もなさそうだ。

 しばらくしてから電気を消した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ