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六話

 まずはリエルに真夜中を知っている範囲で伝える。とはいえ、俺も聞いたら人が死ぬくらいしか知らないのだが。

「ありえない、そうしか言えない」

 非常に簡単な意見だ。自分に自信を持つと同時に、はたして進展するのかと不安になる。

「そうだよな」

 そう言ってイスに座った。立ったままでは足が疲れることを考慮してだ。彼女に対して横柄な態度をしているのではない。

「ねえ、それを聞いてどうするの?」

「……謎解きだよ。どうして人が死ぬのかを解き明かせってな」

 あの先輩の中では俺の役割はそれでしかない。簡単な話、言わなくてもわかってるだろ? ということなのだ。

「へえ、もう解けた?」

 ずいぶん気が早いな。

「正解はわからない」

 そう答えてから付け足す。

「だが、俺に求められているのは納得できる説明だ。正解じゃない」

 そう……堂々といかにもな説明さえできれば周りが勝手に解決したことにしてくれる。それを狙って考えていけばいい。

「説明は付けられるんだけどな」

 リエルに協力してもらうのは俺の真夜中に対する考察を聞いてもらい、矛盾点がないかを客観的に見てもらうためだ。

「説明? どういうの?」

 向こうから興味を持ってくれるとはありがたい。さっそく明日バレイルに披露する予定の考察を聞いてもらう。


 意識が覚醒する。ぼやけていた視界も徐々に鮮明になり、やがて見覚えのない天井を映した。ここがバレイルの屋敷であることを一瞬忘れていた。

「……」

 起き上がり、立つ。ポットのお湯をコップに注いで一気飲み干した。目覚めるにはこれが一番早い。

「はぁ」

 無意識にため息をついた。赤の他人の家で熟睡などできるはずがない。俺のまぶたは重いままだ。

 まさかバレイルの家に泊まることになるとは考えもしなかったので、洗面具や着替えはホテルに置いたままだった。それらはあの二人が来るときまで待つしかない。

 部屋を出て左手、ハシゴの方向を見た。突き当たりの壁が見えるほど明るいが、ハシゴを隠すへこみが絶妙なようで全く見えない。すぐに興味を無くして一階に下りる。


「よく眠れたかい?」

 朝食の席でのバレイルの第一声はそれだった。こういうお決まりの質問はくるだろうと思っていたので「ええ、まぁ」と濁しておいた。

 朝食を食べ終えるとバレイルに部屋に通された。昨日初めに入った部屋だ。

「どうかな? 真夜中のことはわかった?」

 意地の悪い笑みを浮かべて訊いてくる。

「どうでしょう。なにぶんオカルトには正解が無いものでして、証明ができません」

 この前置きが保険だ。何かの拍子に正解が発見されても言い逃れができる。

「まあいいさ。期待してるよ」

 それが建て前であることは簡単に見抜ける。いや、そもそも隠すつもりが無いのかもしれない。

「まず俺はオカルトを信じていません。なので、曲を聴いて人が死亡するという事実は無いものと考えています」

「無理もないな」

 いちいち口を挟むな。と、口の中で呟いた。

「真夜中を聴いてしまったから死んでしまったのではなく、死んだ人の中に真夜中を好んで聴いていた人が多かっただけだと思います」

「それは、つまり偶然だというのかね?」

「どうでしょうね。間違いなく言える事は曲を聴いて死んだ報告が挙がっても、曲を聴いて生きている人の情報は誰も興味を示しません」

 バレイルは下を向いて考え出した。俺はとどめの一言を言った。

「それに、あなたは生きてるじゃないですか」

 作曲者が生きていれば、その噂は何の信憑性も持たなくなる。

「……そうだな。灯台下暗しか、自分自身が見えていなかった」

 そして、バレイルは笑みを見せて言う。

「君の答えが一番納得できた。ありがとう」

 その笑顔は、意地悪なものでも、試すような表情でもなかった。


 一度部屋に戻って家政婦から服を返してもらい、着替える。

 部屋を出て階下に再び行く。もう中林と舞は来ているようだ。

「お、さなみん。おはよう」

「もう昼だ」

「だって、さなみんはいつもお昼近くまで寝てるじゃない」

「人の家でそこまで寝れねえよ」

 廊下で他愛のない会話をしていると、バレイルが部屋から出てきた。

「じゃあ、気をつけて帰りなさい」

 送ってくれれば楽なのだが、そこまで気を遣ってはくれないか。

「あれ? もう終わったの?」

「ああ、帰るぞ」

 さっさとこの屋敷を出る。

「ちょっとちょっと! どうなったの!?」

「もう疲れたから後で話す」

「気になるんだけど!」

「お邪魔しました」

 中林を軽く無視しながら最後の挨拶を済ませて、リエルがいるのであろう部屋を見た。窓は見えるが、中の様子は伺えない。

「適当にタクシーでも拾うか」

「うん、そうだね……」

 中林の元気はすでに無くなっていた。どうやら俺がどう考えたのかがそんなに楽しみだったらしい。


 帰りの飛行機では窓際になった。そこから外を眺めて、リエルのことを思った。

 彼女は古い友人に似ていた。彼女が外に出ていないと思ったのは、その友人の事があったからだ。

 中津原冬斗……その友人とはちょっとした不仲で喧嘩 (中津原が一方的に怒っていた)して以来、まともに会話をしていない。今は同じ学校に通っているが、彼はなにをしているだろうか。

 旧友の姿を思い出しながら、目を閉じた。

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