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四話

「さなみんの性格はあれで完成されてるよね。もうこれ以上変化できない限界に達してるっていうか、若くして成熟したと言うべきか」

「どっちも合ってるんじゃないか? あれから変わるとなると、かなりの衝撃を受けないとダメだと思う」

「でも動じないからねぇ」

「そうなんだよな~」

 愚痴られ屋は愚痴り屋に方向転換し、朝方の花咲のことから砂波の性格についてまで中林に聞いてもらっていた。

「悪いな、愚痴っちゃって」

「いいよいいよ。頼られて嬉しいくらいだから」

「そ……そうか」

 愚痴るのは頼るのとは違う気がするけど……。

「砂波は将来とか大丈夫なのか?」

 あのまま社会人となるのは友人として不安だ。

「意外と大丈夫だと思うよ。一番大変そうなのは白鳥君かなぁ~。私が見たかぎりはね」

「白鳥が? どうして」

 白鳥の名前が出た時の内心の焦りを出さないように、しかし早口になりながら訊いた。

「なんだろ。毎日余裕が無さそうなんだよね。高名君は成績を軽く諦めているわけだけど」

「待て、成績を軽んじた覚えはないぞ」

「授業についていけないから諦めているわけだけど」

「……」

 合ってることに反論はできない。

「白鳥君は無理やりなんとかしようとしてる。それと、いつも右ポケットを気にしてる」

「右ポケット?」

 意味がわからず復唱した。

「うん。私が右側に立つと右ポケットを軽く触って少し距離を取るの。左側はそんなことないのに」

 人との距離が近い中林だからわかった事か。

「携帯? だったら距離取ったりしないよな」

「たぶん大切な物を入れてるんじゃない?」

「大切な物か……」

 ポケットに入るくらいの大切な物とは……?

「高名君、これ以上は邪推ってものだよ。止めといた方がいいよ」

 邪推か。確かにそうだ。そうだけども、今のオレがここで止まることは論外だ。見るべきじゃなかった友の一面を知ってしまった以上、必ず何かしらの結果は付ける。まあ、何をやるにしろ砂波を待つのが先になるのだけど。


 部屋の中で待機していた。砂波は何をしていたのか暗くなってからの帰宅だった。後を追うように砂波の部屋を訪問する。

 ノックを二回する。しかし、反応が無い。

「……ん?」

 もう一回ノックをするが、やはり返事一つしない。確かに部屋に帰っているはずだ。今度は扉を開けて中を覗く。電気を点けていないようで、中は真っ暗だ。

「おい、いるのか!」

 闇の中でもぞもぞと動く影が見えた。

「……すまない。入っていいぞ」

 靴を脱ぎながら右手にある台所の電気のスイッチを点ける。

「明かりくらい点けろ」

「気力がなくてな」

 いつにも増してか。

「今聞けるか?」

「ああ、大丈夫だ」

 そう答える砂波だが、明らかに疲労の色が伺える。

「じゃあ、オレが白鳥の家で見たものを話すぞ」

 全てを話し終わった時、砂波は得意の推論もしなかった。

「そうか」 

 その一言以外、言葉はなかった。

「いや、それで終わりか? もっと言うこととか、聞くことはないのか?」

 それでも砂波は喋らない。ずっと一点を見つめたままだ。

「今、考え事をしているのか?」

 沈黙に耐えきれなくなった。

「……そうだな。俺はこれからやることがある。白鳥の件だが、これ以上やることはない」

「え?」

 自分の耳を疑った。砂波に頼まれて行動し、知りたくもなかったことを知ってしまったのに、こんな結末なのか?

「やることないって……じゃあオレは何をやってきたんだ? 友達が幻覚を見てるんだぞ。これはただ事じゃない!」

「そう言うなら聞かせてくれ。お前に……俺に何ができるんだ」

 虚を突かれた思いだった。砂波なら解決の糸口を見つけ出せると信じていた。確かに砂波の思考力は常人を凌ぐほどだ。けど、その砂波はどうしようもないと言っている。

「お前が協力してくれたのはさしずめ好奇心だろうが、これ以上は俺達の手に余る事態だ。もう潮時なんだ」

「なら……砂波で無理なら……オレがやる」

 たいして考えもせずに口から出た。勢い任せに反論しようとした時、砂波がオレをまっすぐ見て言った。

「人が幻覚を見るのは、かなり精神的に参っていることが多い。下手に手を出し、あれこれ口を出せば白鳥の心はボロボロになる」

 今度はオレが黙る番だった。脳裏に白鳥と皆で談笑している情景が浮かんで、その笑顔の裏を想うと、何も言えなかった。

「お前に解決する絶対の自信があるならいい。だが、もし見切り発車で行くなら俺は止めるぞ」

「オレは……」

「どうなんだ?」

 砂波の声に力がこもる。反対に、オレは弱々しく返す。

「オレには……無理だ」

 人の心の癒し方なんてわからない。もし、白鳥の心労の原因がオレなら逆効果になる。こんな不安感の中で助けようなんて、そこまでオレは馬鹿じゃない。

「そうか、今回のことは忘れろ。それが一番いい」

 忘れろと言われて忘れられるはずもない。今はただ、自分の無力さに腹が立つ。


 自分の部屋に戻る。出迎える無機質なゲーム機を見やるが、気分転換でも今日はやる気が無くなっていた。

 オレには何もできない。思いつかないだけかもしれない。でも、そんな状態で迂闊な事はできない。

「畜生、友達の一人も救えねえのか!」

 左手で壁を殴った。八つ当たりだとわかっていてもそれは止められなかった。

 求められてもないのに人を救う。困っているなら助ける。それは人情として当然だと思っている。だけど、正しいことは自分の許容範囲を超えた瞬間、意味を持たない足枷へと変わっている。常識が、正しいと信じていた今までの正義感はまだ不完全だと思い知らされた休日だった。

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