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二話

 例えるなら目の前に高く分厚い壁が立ちはだかっているような、しかし、乗り越えられない大きさではないほどで気力が削がれるだけの壁。今日は土曜日、玄関の扉の向こう側には花咲がいる。そう、当日になってやる気が無くなったのだ。俺には珍しいことではないのだが、ここで行動を起こさなければ花咲からなにを言われるかわからない。

 ベランダから逃走しようかと考えたが、仕方なくめんどくさがりながら着替えて、いやいや玄関を出る。

「ファミレスで合流になっています」

「ああ……」

 その言葉を最後にファミリーレストランに着くまでお互い無言だった。


 ファミリーレストランの中ですでにグラタンを注文していた少女と対面する。花咲が少女の隣に座り、俺がテーブルを挟んで座る。

 少女……古屋水樹は俺を見た瞬間、驚いたように目を見開いた。いや、本当に驚いたのだろう。グラタンを食べる手が止まって俺の顔を凝視している。

「あの……」

「あっ、ごめんね。本当に似てたから」

 そんな反応をされるほど似てる人がいるとは、世の中は不思議だ。

「砂波先輩、とりあえず何か注文したらどうですか?」

 中身は寂しいが、財布は忘れずに持ってきてある。俺はドリアを、花咲はサラダを頼んだ。

「古屋さんでいいんですよね?」

 問い掛けにコップの水を飲んでから「うん」と答えた。

「君に敬語で話されると変な感じがするから、タメ口でいいよ」

 俺にではなく、俺の顔なのだろう。個人的にもそちらの方が話しやすいので、お言葉に甘える。

「わかった。花咲から聞いてると思うが、まず写真を見せて貰っていいか?」

 古屋は小さなバッグを漁って、目的の写真を俺に渡した。

 どこかの原っぱで撮ったもののようだ。写っているのは二人。片方は小学生くらいの女の子、古屋だ。そしてもう一人は俺と同い年に見える……俺と気味が悪いほど似ている男だ。

「そっくりさんどころじゃないな」

「そうなの。でも、実際に会って違うって確信した」

 気がつけば古屋のグラタンは空になっていた。その皿を少しテーブル中央に寄せ、手元を空ける。

「年齢か?」

「それもあるけど……」

 言葉を濁した。

「俺にとっては失礼なんだな?」

 そう言うと、古屋は顔を伏せた。

「ご、ごめん」

「気にするな」

 失礼な事など言われ慣れている。

「言ってもいいかな……?」

 その視線は俺の顔色を窺っている。

「安心しろ。俺は人生一度も怒ったことが無いのが取り柄だ」

「わかった。言う」

 遠慮しておきながら許可するとあっさり言うんだな。

「あの人は笑顔が素敵だったんだ……。でも、君は同じ顔でも雰囲気が全然違う。これが理由」

 なんだ。心構えをしたが、たいしたことなかった。

「今日はありがとね。どうしても会ってみたくてさ」

 終了のムードが漂い始める。まだダメだ。保護しろと言われている相手が目の前にいるのだ。せめて連絡先をキープしておかないと。

「いや、構わない。……連絡先を聞いてもいいか? もしかしたらその男、俺の親族という可能性もある」

 電話番号だけじゃ、ただのチャラ男になってしまうので、即興で理由を付け足した。

「うん、いいよ。別に」

 古屋から携帯電話を受け取ったが、自分の携帯の操作がわからない。そういえば、上秋や中林の番号を登録をした時も二人にやり方が解らず、やってもらっていた。

「やってあげるよ」

 情けなくも携帯電話を両方渡す。

「うん、これでよしと」

 簡単な操作なのか手際がいいのか十秒とかからず終わった。

「……あ、そういえば君の名前知らなかった」

 会話を思い出す。俺から古屋のことを確かめたが、俺は名乗っていなかった。

「砂波響。名字は砂と水の波、下は響くだ」

 そして、ようやく俺はドリアを食す。運ばれた時には熱々だったが、すでに冷えていた。

 食ってる途中、いつの間にか隣に花咲が座っていた。気配のない奴め。

「女の子の電話番号を聞き出すなんて意外とやりますね」

「お前は勘違いしている」

 目の前に当人がいるのに気を遣わずに喋る。

「女に飢えているわけではないと?」

 本当にこいつは失礼だ。

「俺は恋愛に興味がない」

「それはそれでどうかと思いますが……」

 これは何と答えるのが正解だったのだろう。

 全員自分の分の食費を払い、この日はお開きとなった。

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