混同
潤の一日のゲーム時間が日に日に長くなっていった。
徹夜でゲームをするようになったり、授業中熟睡したり、さぼったり、遅刻して行ったり、土日は一日に一度食事を摂りに戻ってくる程度になったりと悪化していった。
2日間部屋から全く出てこないということがないため、親は心配はするものの潤の性格を考えて放っておいた。
そしてある日久しぶりに潤は朝から登校した。
疲れた表情をし、目の下にはクマが出来ている。
爽やかに登校する学生の中、一人大あくびをして登校する。
女子高生の甲高い笑い声や挨拶の声、男子高生の低い笑い声やバカな話が潤には騒音に思えた。
『やっぱ帰りてぇ・・・向こうの世界に』
「おはよー!!」
後ろから聞き覚えのある声がした。
後ろを振り返ると向居真央だった。
潤は“おはよう真央”と口を開こうとしたが、言葉をなくした。
真央は潤を通り過ぎ、前にいる男子高校生の背中をバシッと叩いた。
男子高校生が背中を押さえながら振り向いた。
その男子高校生は北元健二だった。
真央は健二の腕にしがみ付き、人目も気にせず並んで歩き出した。
『あいつら・・・!!』
潤は二人を強くにらみ付けた。
だがすぐに冷静に頭を切り替えた。
そう、ここは現実世界。
ゲームの世界ではないのだ。
潤は頭を左右に振り、両側の頬をパンパンと叩いた。
『違う違う。
ここは現実世界なんだ。
あいつらはこっちでは恋人同士なんだな。
・・・てか俺、やばいな』
現実とゲームの記憶が混同しつつある。
これは重症だと思うものの、頭の中にはゲームのことばかりだった。
逆にゲームの世界に来ると、現実世界のあの光景ばかり頭に浮かんだ。
どうしてもゲームの世界の二人と重ねてしまう。
今健二の部屋のベットでゴロゴロとくつろいでいても、くつろいでいる気がしない。
気になって仕方がない。
現実世界があれだから、ゲームの世界では違う―とは限らない。
潤は単刀直入に聞いた。
「なぁ健二、真央と・・・・・真央と付き合ってるってことはあるか?」
声が少し小さくなってしまった。
「ん?何か言ったか?俺と真央が何?」
健二は漫画雑誌を読みながら素っ気無く返事をした。
潤はなんとなく、もう一度同じ質問を口にするのが嫌だった。
というか聞いても意味がないと思った。
真央の彼氏本人を目の前にして、“実は真央と付き合ってます”なんて言うわけがない。
「いや、なんでもない。」
と潤は漫画に目を向け、小さな声で素っ気無く返した。