ゲーム生活
この『人生ゲーム』は本当に『ゲームの中で別の人生を歩む』ゲームだ。
別に武装した敵が出てくるわけでもなく、モンスターが出てくるわけでもなく、それに対抗してこちらも剣を振りかざしたり銃器をぶっ放したりもなく、ただただ平凡な生活をする。
だが潤にはこの平凡な生活が楽しかった。
現実世界も平凡だが、平凡は平凡でも全く違う。
N高校での俺は成績は上位で、部活はやっていない。
だが真央が野球部のマネージャーをしているので、終わるまで図書館で勉強する。
よく健二には
「勉強ばっかやってないで、野球やれよ」
と言われる。そのたびに
「野球ピンポイントかよ」
と、つっこんだ。
部活が終わると真央とファースドフード店で話をしたり、勉強を教えたり、ゲームセンターで遊んだり・・・。
現実世界とは全く違う一日だった。
自分の性格、友達、彼女、学校・・・現実世界にはないものがたくさんある。
まだプレイして一日しか経ってないが、潤はこのゲームにすっかりはまっていた。
まさかこんなゲームがたった980円で手に入るなんて。
本当に買ってよかった。
潤は心底そう思った。
しかしすぐに頭を切り替えた。
どんなに居心地がよくても、ここはゲームの世界だ。
起動したままのゲーム機とヘルメットを見て、戻らないといけないだろうと少し気が重くなった。
現実世界にいたってそんなに楽しいことなどないのに、楽しいゲームの世界の生活を楽しんだ後に現実世界の生活を送らなければならない。
「一応・・・やっぱ戻った方がいいかな・・・」
潤は渋々ヘルメットを手に取り、少し躊躇して被った。
するとまた意識を失った。
意識が失うのは本当にほんの一瞬のものだ。
戻るなり潤は時計を見た。
12時。
部屋は明るいが、外を見るとこの部屋の明かりのせいで景色はうっすら見えるが真っ暗だった。
夜中の12時だ。
ゲームを開始した時間が8時だから、現実世界の4時間が向こうの1日なのか。
潤はゲームのシステムを少しずつ理解し、今日はひとまず終わろうとひとっ風呂浴び眠りについた。
そして改めて思い知らされた。
翌日、潤は現実世界の生活をいつも通り送るものの、やはり今まで以上にやる気がでなかった。
授業を受けていても上の空。
珍しく誰かが話しかけてくれても煩わしいという態度をとる。
潤は早く一日が終わることを願っていた。
さっさとこの現実世界からゲームの世界に移りたいと一日考えていた。
本日の授業が全て終了すると、いつもなら街の仲間とふらふらしているが、今回は足早に家路についた。
家の鍵を開け、誰もいない家に駆け込み靴を脱ぎ捨て階段を駆け上る。
が、一端また下り台所に駆け込んだ。
適当に菓子パンを掴み、缶ジュースを手に取り再び階段を駆け上った。
前回同様ドアに鍵をかけた。
『今日はおふくろも親父も遅いから・・・そうだな。向こうの世界を2日間くらい楽しもうかな』
二日間ということは現実世界では8時間ゲームをプレイすることになる。
そして今の時刻が5時。
潤はヘルメットを装着し、電源を入れた。
潤の意識は再びゲームの世界に飛び込んでいった。