ゲーム開始
帰宅するとゲームの前に食事を摂った。
親は医者と看護師で滅多に三人揃う事などないのに、ろくに話もせず食べ物を胃袋に流し込むように食べた。
潤は食事を終えるとさっさと自分の部屋へ向かった。
階段を駆け上がり、部屋に入るなりドアに鍵をかけた。
『これで邪魔されずにゲームができる』
潤は早速ゲームを開封した。
箱を開けるとシンプルなヘルメットとソフトが入っていた。
ヘルメットの内側に、貫通しているわけではないが直径1mmほどの無数の穴が開いている。
そしてゲーム機のコントローラー同様、長い接続ケーブルがついている。
他には顎下で止めるよう、サイドにマジックテープがついている。
『これを頭に装着するのか・・・』
潤はヘルメットを360°に回し、観察した。
ひとまずヘルメットは横に置き、次に説明書を手にした。
『まず、電源を入れる際、あなたが人生でどうやり直したいか、またどう望んでいたかイメージしてください。
そこがスタートになります。
例えば、“今の自分が美人だったら”と思うと、今の年齢で美人になった自分から人生がスタートします。
他にも、5年前など年数をつけると、ゲームでは5年前の自分からスタートします。
ただし1000年前など、5年後など、生まれていない又はまだ経っていない年数は除外されます。』
つまり、潤の場合“今の自分がN高校に行っていれば”と想像すれば、N高校に通う自分がいるということだ。
『ゲームを終えたければ、ゲームの世界で、このヘルメットを装着してください。
ヘルメットは現実世界でゲームをしている場所と同じ場所にあります。
そうすればあなたの意識は現実世界へ戻ります。』
潤は目を疑った。現実世界に戻ります・・・。
それはどういうことだろうか。
率直にとらえると、自らがゲームの世界に入り込むということだろうが、そんなことはありえるのだろうか。
いや、わかっていたはずだ。
普通のゲームとは違うと感じていたんだ。
潤は続きに目を通した。
『ゲームの世界といっても、人生何が起こるかわかりません。
死んでしまうこともあるでしょう。
しかしご安心ください。
命を落とせばゲームオーバーとみなし、意識は自動的に現実世界に戻ります。
そのため、現実世界でヘルメットは絶対取らないでください。
ヘルメットは命綱のようなものです。』
「死ぬ・・・っつてもゲームだしな。」
潤は説明書を置き、ゲーム機をセットした。
ゲーム機のケーブルをテレビに接続し、コンセントにプラグを差込み、最後にヘルメットの接続ケーブルを差込みヘルメットを被った。
そして落ちないよう、顎の下でマジックテープをしっかり止めた。
ついに電源を入れた。
潤は何度も唱えた。
『N高校に行っていれば。N高校に行っていれば。N高校に行っていれば。』
退屈な授業、煩い親、退屈な毎日がどう変わるのだろうか。
潤は胸を高鳴らせながら唱えた。
そして座ったまま、意識を失った。