パメラ・ゴードンスミスの場合8
「宰相に、宰相にさえ成れたら、伯爵になれるんだ!」
「伯爵と言っても、一代限りだけどな」
「それでも、子爵よりは良い! 子爵の年金なんて、たかが知れているんだぞ! 宰相補佐を辞めても、文官は激務だし、伯爵の年金があれば・・・!」
「宰相になってすぐに辞められると思っているのか? バードマンですら五年以上、務めているんだぞ」
「後、五年も結婚するなと?」
「結婚どころか、婚約の維持に何年できると思う?」
「相手は、――相手はまだいないが、宰相になってから探せば・・・」
「歴代の宰相だって、そう思いながら辞めるまで婚活できなかっただろ」
「宰相になって婚期を諦めるか、伯爵を諦めて貧乏子爵で残りの人生を過ごすか・・・――究極の選択だ」
「婿入りなり、領地経営のうまくいっていない家の娘と結婚して、家を支えるって道もあるぞ」
「そうか! その手があったか!」
「十代から見たら、俺たちはおっさんだ。狙い目は二十代の令嬢だ」
「確かに! 同世代なら、おっさん呼ばわりされないからな!」
納得する者ばかりではなかった。
「それじゃあ、実績もない十代の男に負けるっていうのかよ!」
「普通だったら、同世代を選ぶよな。クソッ。兄様呼ばわりしてくれる、歳の離れた幼馴染がいたら、こんなことにならなかったのに!」
「俺たちにあるのは、婚期を逃して培った実績だけだ。後は健康そうで人気の集まる騎士に負ける」
「直視したくない現実を言うなよ! 騎士は婚期が遅れても選り取りみどりだからって、婚期を逃した文官は訳あり扱いされるって、言うなよ!」
「許せん! 独身貴族の生活を謳歌した挙句、婚活の苦しみもなく、さっさと結婚だと?!」
「俺たちはその間、仕事で遊ぶ暇なんか無かったっつーの! なんで、そこで訳あり扱いされるんだよ!」
「文官で子爵になった男なんて、浮気女以外には人気がないからな」
「金目当てかよ!」
「そこそこ悠々自適に暮らせて、旦那は中々、帰ってこないから、浮気し放題。金を運んでくる生き物としちゃ、最高だろ」
「クソだな、マジで」
「俺たちに残された道は、訳あり令嬢か、金目当ての女しかいない」
「慌てて結婚、ゆっくり後悔か」
「よし! 毒親に苛まされている訳あり令嬢を探すぞ!」
「俺は父親の再婚で虐げられている令嬢を探すぞ!」
「真実の愛に酔いしれている男の娘を探すぞ! 母親のフォロー付きで簡単に結婚できるかもしれん!」
「手分けして、結婚してくれそうなリストを作るぞ!」
「「「オー!!」」」
彼らの心の叫びを聞き、パメラは自分の不幸など、まだまだだと思った。仕事を押し付けて理不尽なことを言ってくる浮気男でも、婚約者がいるだけ幸せだ。
「・・・」
そんなパメラの心中を知らない専属侍女と部屋付きの侍女は、そんなことだから結婚できないのだと、宰相補佐たちに冷たい視線を送っている。
そして、もう一人――
「・・・五月蝿い。黙って、朝食を取れ。くだらないことに費やす時間はないのだ」
寝ぼけ眼だったセダム卿が完全に目を覚ました。
アットホームな職場です。