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パメラ・ゴードンスミスの場合7

昨日、投稿できなかったので長めです。

「セダム卿、カーディナル卿、トットハム卿・・・――宰相補佐のみなさま全員ですか?!」

「「「ご機嫌よう、ゴードンスミス嬢」」」


 集団で挨拶が返って来た。

 身分はパメラが名前を呼んだ順で、セダム卿やカーディナル卿のほうが高いが、普通にしているようでも二人の目は寝ぼけ眼のようにトロンとしている。夜型なのだろう。


「はははっ。その通りです。ご機嫌よう、ゴードンスミス嬢」


 力無く笑いながら、トットハム卿が言った。声を掛けてきたのも、トットハム卿だ。


「ご機嫌よう、みなさま」


 慌ててパメラも挨拶を返す。


「でも、どうして、みなさまがこちらに?」


 ラニア――部屋付きの侍女から宰相補佐たちが利用する時間帯を聞いて来てはいたが、全員、揃って行動しているとは、パメラは思っていなかった。


「食堂が開く時間は遅いから、シルヴィア――部屋付きの侍女に持って来てもらっても、食べる時間が無くて」


 今までパメラは屋敷で朝食をとってから登城していたので、王宮の朝食が遅い時間帯だったことを知らなかった。


 パメラはまだ未成年なので夜会に出席することができず、王宮のタイムスケジュールに疎かったのだ。

 何年も働いていておかしい話だが、登城後、会議や公務で外出する以外は与えられた部屋で執務をし、必要な物があれば、専属侍女や部屋付きの侍女に頼んで調達してもらう。そんな生活で、王宮のタイムスケジュールで判明しているのは、会議がおこなわれる時間帯とお茶と昼食、夕食の時間帯だけだ。


 本来は王都にあるタウンハウスでの朝食の時間帯も、王宮のようにブランチの時間帯である。第二王子から仕事を押し付けられるようになって、帰る時間があまりに遅くなるので、パメラはカントリーハウスで使う領地時間で朝食をとっていた。


 王宮の朝食が遅いのは、王宮の夜会が日付が変わっても続くことがあるからである。王都の社交界の夜会の中には空が明るみ始めるまで開かれているものもあるので、王宮の夜会だけが遅くまで開いているわけではない。

 主催者の爵位も低ければ、参加者の条件も緩い夜会ほど乱痴気騒ぎになり、終わる時間が翌日の朝に近くなる。高位貴族がそういった催しをすることは勿論、参加したと判明しただけで家名に泥を塗ることになる。

 その代わり、正体を詮索しない仮装パーティーや仮面舞踏会などを主催して、高位貴族の家名にかけて安全性や娯楽性を保証する。その安全性には素性が確かな者しか招待しない、といった警備上の考慮も含まれる。

 これは高位貴族の開催する、どの催しにも共通しており、伯爵以上の家の出や、主催者のよく知る名家、社交界の人気者以外は招かれない。招くほうが厳選しているように、招かれるほうもその品格に合った連れしか連れて行かない。

 つまり、妻や婚約者以外は親族(もしくは、代父母のように責任を持って後見をしている相手)しか連れて来てはいけない場に、愛人を連れて来る行為自体が侮辱に当たる。ペルソナ・ノン・グラータと見做されて社交界から締め出されたくなければ、連れには気を付けろ、ということである。


 この夜会の長さも貴族が集まって暮らしているからできることで、領地で開かれる場合はダンスに時間を取られる舞踏会は招待客が宿泊する前提でおこなわれ、日帰りの夜会は同じ村や近隣りの村の居住者を招いた食事会ぐらいだ。それも、タウンハウス時間の夕食時間には終わっている。

 すべては、まだ明るい行きとは違って、暗い夜道で倒木や大きな石に注意して走らなければならない道の安全性と賊に襲われる可能性を考慮した結果である。

 同じ村の中の移動では、領地をうまく治めていれば賊は出ない。隣り村への移動も、同様だ。

 領主にとって賊は、領民が食い詰めた失策の結果か、他所から流れて来た犯罪集団である。

 近隣に不審な集団が来た、と噂になっただけで、警戒しなければいけない。

 だから、不審者情報があった時点で、日帰りの夜会に隣り村の居住者を招くことはできない。それが主催者の責任である。


 長々と夜会の時間について書いたものの、パメラはまだ未成年なので、こういった事情も知らない。未成年が参加できる社交はお茶会だけである。

 そのお茶会も、準成人になるまではほぼほぼない。今のパメラは準成人だが、仕事が忙しくて参加できていないが。

 準成人になる前の貴族の子女は、家が用意したお友達(王太子にとっては学友みたいな存在)とのお茶会くらいだ。高位貴族とは、いくら失敗しても、大丈夫な交流を用意しているものなのである。


 さて、パメラは第二王子のせいで高位貴族として積み重ねなければいけない社交のスキルの育成機会を潰されて、働いていたわけだ。

 準成人なので夜会に出てはいなくても、タウンハウスで暮らしていたのなら、親兄弟のスケジュールである程度はわかっていたはずである。

 親兄弟が起きる前に起きて、朝食を食べて、登城。仕事をして、親兄弟が夜会に出席して不在の間に帰宅して、就寝。

 親兄弟と顔を合わせるのは、夜会がない日か、王宮の中、という生活で、親兄弟のスケジュールに興味を持てるはずもなく、パメラは王都の貴族のタイムスケジュールにも疎かった。


 王宮に勤めながら、王宮のタイムスケジュールを知らないパメラ。

 王都のタウンハウスに住みながら、貴族のタイムスケジュールを知らないパメラ。

 そんな彼女でも、食堂の開く時間が遅いから、と言われれば、『ああ。王宮の朝食は遅いのね』と、思う。

 王宮の朝食より早い時間帯に食事をしていた。

 それは領地時間の朝食の時間帯でも、王都の貴族の朝食の時間帯ではない。

(婚約者に仕事を押し付けられている私の朝食の時間帯が、王宮の使用人の朝食の時間帯)


「そうなんですね」


 スルリと口から出てきた言葉は、感情が抜けていた。

 トットハム卿は社交的だが、多少、空気が読めない。パメラの声音の変化にも気付かず、話を続ける。


「それなら、使用人用の食堂に食べに行けと、シルヴィアが全員を追い出すんですよ。毎朝、毎朝、飽きもせず」


 ぼんやりとしていたカーディナル卿が口を挟む。パメラの状態に気付いたようだ。


「ええ。『一人でも残って、倒れられたら困る』と言われては、食べに行くしかないでしょう」


 第二王子のことで、いつも代わりに怒ってくれていたリリア。

 王宮での生活でサポートをしてくれていたラニア。

 宰相補佐たちも自分と同じような存在がいると聞いて、パメラは親近感を抱いた。


「そうなんですね。なんだか、リリアとラニア――私の専属侍女と部屋付き侍女のようですね」

「本当に助かっています。後は勤務時間が減れば、文化的な生活がおくれるんですが」


 他の宰相補佐たちが口を挟む。口調は外向きではなく、完全に気の置けない同僚向けのタメ口だった。


「それは無理だろう」

「そうそう。無理無理」

「歴代の宰相たちですら、婚活の為に辞めていったくらいだから、宰相になって勝ち抜けするしかない」

「いいや。宰相補佐を辞めることが一番の早道だ」

「バードマン閣下を裏切るのか?」

「裏切るも何も、なあ」

「夕食を取れるようにしてくれた恩はあるが、俺だって、恋人や婚約者ぐらい欲しい!」

「できても、振られるだろ!」

「夜会に出たって、仕事ばかりで出会いがない!」

「出会いがあっても、気付いたら他の男と結婚しているんだよ!」


 話は婚活へと流れていった。

 長時間勤務と空腹と仮眠から目覚めたばかりの状態で、宰相補佐たちの判断力も落ちているようだ。

王太子は夜会等でやらかしていないので、宰相との間に黒歴史が生まれただけでした。

仕事をしなかった学友は自業自得です。

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