パメラ・ゴードンスミスの場合6
「お嬢様。み、見間違いの可能性はありませんか?」
「護衛騎士のエロール卿がブラッド様の後ろに立っておられたわ。だから、ブラッド様だとわかったのよ」
「良かったです。髪の色だけで王太子殿下だとわかった、と言われたら、どうしようかと、思いました」
「バリエイの方々は服で他国の者だとわかるんだけど、流石に、余程、珍しい色でなければ、髪の色だけで人物の特定はできないわ」
ありふれた髪の色では個人を特定できない。それはパメラが王太子に興味がない、と言っていることと同じ意味だ。
リリアはそれを聞いて安心した。いくら、婚約者に嫌悪感しかないからと言って、婚約者の兄を簡単に認識できては、不貞を疑われてしまう。
服装で他国の人間だとわかる、というのは、民族衣装以外にも、その国独自の感覚などがあるからだ。こんな柄、誰が着るんだよ、と思う柄が似合ったり、一般的に似合わないとされている体型でも何故か似合ったり、理論を超越した国民性というものがある。
「でも、どうして、このようなところに、王太子殿下が?」
「そうよね。どうしてかしら? 護衛騎士を兼ねていたご学友がいたら聞けるんだけど、・・・真面目なエロール卿は教えてくださるとは、思えませんもの」
「無闇矢鱈に主人のことを話さないのは、護衛騎士として、当たり前のことですよ。何気ないことだから、と話したことが原因で襲撃計画を立てられてしまいますからね」
「そうなの? 怖いわね」
「それはそうでしょう。傍付きの使用人も護衛騎士も重要な情報を目にする職種ですからね。見聞きしたことを黙っていられないなら、貴人の傍では働けませんよ」
「リリア・・・」
専属侍女はさらりと流してしまったが、王太子には将来有望な騎士になるであろう学友の側近候補がいた。候補止まりだったのは、王太子が成人するまでに学友の資格すら失ってしまったからだ。
護衛も兼ねた学友が学友ではなくなった為に、王太子は数年前のように護衛騎士が付くようになった。
それがパメラが真面目だと言っているエロール卿である。
パメラは王太子の学友のことを知っていたし、何らかの不都合があって、学友でなくなったことしか知らないが、職務に忠実そうな護衛騎士よりは色々、話してくれただろう、と思っている。
「おや。そこにおられるのは、ゴードンスミス嬢ではありませんか?」
使用人用の食堂に入れず、事情もわからないまま、廊下にいたパメラに食堂に向かう10人ほどの集団から声がかけられた。