パメラ・ゴードンスミスの場合18
書類だけでなく、箱まで手にしていても、リリアは何も言わなかった。専属侍女だからこそ、主人との会話には気を遣う。人目のある場所での会話は身分を弁えた行動をするのはそうである。
ただし、朝食に向かう場合は使用人向けの区域だったので、その限りではない。
主人格の身分の者は使用人向けの区域には入ることはないし、使用人は主人格の身分の者が行動する区域では極力、息を殺して静物のように振る舞う。
主人格の身分の者が使用人向けの区域には入ることは、使用人の領域を侵すことであり、決してやってはいけないことなのだ。あの夜間も営業している食堂以外では。
しかし、リリアが黙っているのも、パメラが与えられている執務室に入るまでだ。
「それで、お嬢様。その箱は何でしょうか?」
「ゴミ箱だそうよ。入っている書類は呼び水だとか」
「「ゴミ箱?!」」
リリアと部屋で待機していた部屋付きの侍女ラニアの声が重なった。
「それとしか、教えていただけなかったの。ただ、それを置く机と、女官用の机が搬入されるそうよ」
「女官用の机ですか?! それって、女官が付くということですよね、お嬢様!」
「おめでとうございます、パメラ様!」
質問してくるリリアも、祝ってくれるラニアのテンションも高い。
「・・・?!」
女官を付けていなかった今までが、如何に酷い状況だったのか、パメラは思い当たった。
夕食までに戻れなかったのだから、相当、酷い状況なのだが、本人が自覚していなければ、立派なブラックな職場である。
仕事を手伝うことを許されず、端から見ているしかなかったリリアとラニアはようやく、歯痒い思いをしないで済むのだと思った。
遊び惚ける第二王子に搾取されて人間らしい生活を送れない公爵令嬢。
それを見ているしかできない、自分たち。
それがリリアとラニアにとって、どれほど胸を痛めることだったのか、パメラは知らない。
自分がブラックな環境で生きている自覚もなかったのだ。
察しろと言っても、察するだけの余裕などあろうはずもない。
酷い状況だったと自覚したパメラの様子に気付かず、リリアとラニアは微笑み合っている。
「良い人だといいですね~」
「本当に」
「女官が付くだけで、仕事がはかどりますからね」
「これで、お嬢様ばかりに負担がいくことも減るんですね~」
パメラは何とも言えない表情で二人のやり取りを見ている。
「・・・」
「それでお嬢様。女官は何人、付くことになったんですか?」
「それはわからないわ。教えていただけなかったの」
「そうなんですね」
「この部屋の規模から考えて、女官用の机は4つは置けます」
「四人も任命されるかしら?」
「四人いたら、お嬢様も楽になりますね」
「そうね」
本当にそうなって欲しいと、三人は思った。




