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お腹を空かせた公爵令嬢と屋敷に帰れない宰相  作者: Ash


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パメラ・ゴードンスミスの場合16

 その日、パメラはいつものように宰相補佐室に書類を運んでいた。書類の運搬だけなら、侍女や女官に任せてもいいと思われるかもしれないが、王族が確認すべき書類である。役付きの文官や王族の側近など、名前と顔が知れ渡っていて、責任の所在が明確な人物しか、手にすることは許されていない。

 パメラにも側近がいれば、側近はいなくてもパメラ付きの文官がいれば、その人物に任せられるのだが、ここでも第二王子が「一人で仕事もできない者に王子妃は荷が重いんじゃないか?」の一言に乗せられたゴールドスミス公爵が断ってしまっていた。

 つまり、パメラに与えられている部屋から宰相補佐室に運ぶのは、パメラにしか許されていないのだ。

 元々は、第二王子の執務室から運ばれてきた書類だが、そちらに戻しても、宰相補佐室に持って行かされるので、パメラが確認した後は宰相補佐室に持って行くようにしている。

 そういう理由で宰相補佐室に持参したのだが、宰相補佐室では異変が起きていた。


 各部署から上がってきた書類が入っている箱。

 各部署ごとに分けられた書類の箱。

 その箱の中身が非常に少ない。


 そして、宰相補佐用の机と椅子が少ない。


「模様替えでもなさったのですか?」


 と、パメラは思わず聞いてしまった。

 宰相補佐室で仕事をしていたトットハム卿が軽快に答える。


「ああ。色々あって、今度から各部署との調整業務は別室でおこなうことになったんですよ。ゴードンスミス嬢も各部署に関する物はレオン殿下の元執務室に運んでください」

「レオン殿下の元執務室?ですか? 何が一体、起きているのでしょうか?」


 昨日と今日で宰相補佐たちの席まで減っているだけでなく、第二王子の執務室が使用されているのである。パメラが驚くのも無理はなかった。


「レオン殿下の元執務室は、この部屋よりも各部署にも近くて、使いやすいので各部署との調整の拠点として選ばれました」


 もう一度、言おう。昨日と今日で第二王子の執務室が宰相補佐たちの執務室の分室になったのである。その上、あのプライドの高い第二王子に好評を博すなど、信じられるものではない。


「・・・レオン殿下の新しい執務室はどこになったのですか?」

「サロンに解放されていた一室を使っていただいております。外出もしやすくなって、非常に好評でしたよ」

「・・・」


 執務室として使われていなかったとはいえ、パメラの胸中は複雑だった。貴族たちが自由に使えるサロンとして開放されている部屋を執務室として与えられて、喜んでいる理由が理由である。

 婚約者への好意など木っ端微塵になっているとはいえ、それでも、王子がこれでいいのか、と不敬な思いがこみ上げてくる。

 部屋替えの理由がセキュリティー面での不安であったことなど、パメラは知る由もなかった。


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