【閑話】トットハム卿の独り言
朝食、食っている時に気付いたんだけどよ。
俺たちの中に婚約者持ちがいるんじゃねーかって。
一人が言っただろ。『歳の離れた幼馴染』って。
これ、宰相補佐で辞める奴によくいるんだわ。婚約者が成人するまで頑張る(他の女避け)って奴。
婚活もできねーし、夜会で会っても訳あり扱いで眼中にない扱いされねーから、忘れていたけど、宰相補佐は女避けめっちゃ出来るんだよ。
女避けするから、結婚できねーんだけど、それを逆手にとっているんだよな。
それ以外にも、好きな女と結婚したくて爵位を手っ取り早く取りたいから、宰相補佐になる奴。一年ばかり席を温めて元の部署に戻れば、同期より先に子爵になった超エリート。
けどよ、宰相補佐からの出戻りは扱い難いって、窓際コースなんだよな。
宰相補佐になって五年も働けば、宰相交代に遭遇するわけで、その翌年くらいがベストの辞め時だ。
宰相交代を経験した宰相補佐は即戦力になるので、領地経営に失敗した家から大人気で婿入り先に困らない。
と、呑気にしていたら、バードマンが無茶振りしてきやがった。
嫌だよ! モテモテ王子の傍で非モテを実感するのは!
宰相補佐室の期待の新人リッチーに矛先が向くも、既婚者だと?!
いくら、家に帰れなくて、会えないからって、裏切り者め!
裏切り者と言ったら、リッチーはこう言い返してきた。
「カーディナル卿だって、結婚しているじゃないですか」
「カーディナルは良いんだよ。あいつの結婚は、訳あり令嬢を押し付けられた最初から破綻した結婚だからな」
「へ? 最初から破綻した?」
男遊びが激しくて、高位貴族じゃ結婚相手が見つからなくて、家にとってかなり有利な条件でカーディナルに押し付けられた筈。奴にとっては、まったく、メリットのない結婚なんだよな。
まったく、羨ましくない。
「トットハム卿、妻を悪く言うのは止めてもらえますか?」
「だって、本当のことじゃないか」
「そうでもないのですよ。各部署との連携がスムーズになったら、職を辞して、妻とゆっくり暮らす予定です」
「あの揚羽蝶が平穏な生活なんてすると思ってんのかよ?!」
「妻を侮辱するのは止めてくださいと、言いましたよね? トットハム卿」
「けどなー――」
可哀そうだと思っているから、慰めてやってんのに、なんで、カーディナルは怒っているんだろう。
バードマンまで口を出してきた。
「トットハム卿、黙れ」
「バードマンまでカーディナルの肩を持つのかよ」
「今のはお前が悪い」
「宰相になれたからって、調子、乗ってんじゃないぞ。俺のほうが先に結婚してやるからな、バードマン」
「はいはい」
相手にしないつもりかよ! ムカつくーー!!
慰めるって何だろう、とクエスチョンマークが飛ぶトットハム卿視点でした。
親しくない相手には丁寧な言葉遣いで本心を語りませんが、かなり砕けた性格です。