パメラ・ゴードンスミスの場合13
「セダム卿。何故、そのような含みのある言い方を?」
「三か月以上かかかるということは、友好的であっても、それだけ、ということです。隣りの国というのは、安い物を輸出されて国内産業に打撃を与える厄介な存在です。ですが、救援が欲しい時にすぐに持って来れる距離にあるのです。三か月かかる国がすぐに援助してくれても、早くても半年後。それまでに飢え死にする人数を考えてご覧なさい」
「何も遠い国からの援助を座して待つ必要はないのではありませんか? その半年は隣りの国々から食料を買い集めれば、餓死者も抑えられます」
「フフフ。流されませんでしたね」
「どういうことです?」
「遠い国を蔑ろにされては困るからです。遠い国だからこそ、我が国にとっては信用できる国なのです。三か月以上かけて行った国を属国化しても、その国までの間の国のせいで、統治も何もかも上手くいきません。通るたびに嫌がらせもできますから、飛び地の属国なんて意思の伝達もママならないわ、周辺国が侵略の機会を窺うわ、リスクだらけです。腹の探り合いをせずに安心して交流が図れる国というのは、貴重なのです」
周辺諸国が仲良しこよしとは限らない。一国がどこかに属国化されれば、宗主国を警戒すると共に、属国化になるぐらい弱い国だからと、侵略対象にされてしまう。
そうでなくとも、周辺諸国は自国にとって都合の悪い王を、国内の貴族を焚き付けて殺してしまうことだってある。
同じ宗教を信じているからこそ、隣国との表だった戦争は出来ないが、そちらの貴族を抱き込むことは出来る。だから、王位継承戦争が起きる。
そういうことをする貴族は、殺された王の息子が操り人形にできると考えるわけだが、そういう貴族だからこそ、殺害方法が非道で、王子からそれ以上の仕返しを受ける。その例がドラキュラ伯爵のモデルとなった国王だ。
勿論、外国の貴族を唆して、王を弑するなんて、蛮族の襲撃で疲弊している国や貴族同士の争いで紛争が絶えない国はやれるだけの余裕がない。
セダム卿は文官(社畜)に支えられているこの国の貴族がいつ、他国の王に唆されて王を弑するか、危惧していた。
今までこの国が無事だった理由は、王族や高位貴族が文官に仕事を丸投げして満足していたのと、周辺国が安定していなかったからだ。自然災害はこの国にも齎されていたので、他人事ではないが。
王太子は成人しているとはいえ、王になるには、まだ若すぎる。
第二王子は傀儡にもってこいの性格だ。
第二王子に手綱を付けておかなくては、王太子に何か遭った時に困る。
そこでセダム卿が目を付けたのが、第二王子の婚約者であるパメラである。
そのパメラが他国に唆された貴族に流される性格かどうか、セダム卿は試したのである。




