パメラ・ゴードンスミスの場合12
前話にもモデルがありますが、虚実、織り交ぜています。
現実との共通点は3つ。
・手厚い看護
・国が母国まで安全に運んだ
・50年以上、友好的
「・・・」
パメラはセダム卿の語った内容を理解しようと努めた。
努めたが、”家族”という言葉が引っ掛かって、理解できなかった。”子や孫”と言った時はスルリと理解できたのに、”家族”はそうはいかない。
セダム卿は言った。『他人から見ればたったそのようなことでも、家族にとっては、そうではありません』と。
(”家族”って、何?)
パメラの知る”家族”は何日も話すことがない。
”家族”が助けられた。そのことを、パメラも話すかもしれない。
でも、自分の子どもにまで話す気にはならない。
パメラが生きている間は、”家族”を助けてくれた国に対して好意を持っているかもしれないが、パメラの子どもは他の人から聞いたその国の印象で生きていくだろう。
そう思ってしまうのは、パメラが薄情だからではない。
パメラの家族の関係が希薄だからだ。
一夫多妻の文化なら、母親と子どもたちの絆は驚くほど強い。実家の力が強い女性が第一夫人となり、夫の寵愛に関係なく、権力を握る。実家の力が強い妻というのは、役に立つ実家を持つ女性であり、夫が妻の実家からお払い箱だと思われたら、子どもを連れて離縁されて、容易に捨てられる。
しかし、どんなに寵愛されていても、一夫多妻の文化では息子を産まなければ妻としての地位は低くなる。たとえ、第一夫人であろうと、だ。
その為、妻たちは代わりに子どもを産む同じ一族の女性を連れて嫁に出される。二人とも不妊などという確率は低いので、第一夫人の実家は必ず一族の血を引く子どもを得、夫人としての面目を守る。
一夫一妻の文化は、母親と子どもたちの絆はあまり強くない。妾の子は継承権を持たない為、母親は子どもを産んだだけで一族の血を繋ぐ義務を果たす。
妻腹以外の子に継承権を持たせれば、妻の実家に殺してくれと言っているも同義。その母親である愛する女性も巻き添えにされては、たまったものではない。
そんなことがわからない愚者が報復で妻を殺して、妻の実家が怒って、国が滅茶苦茶になる。
なんてことが起きる前に、宗教上、私生児は洗礼を受けられない、という決まりがある為に、私生児に継承権はない。
宗派によっては異端だと判断されて死を求められるし、国王が破門された日には、異教徒の国だからと、侵略も正当化される。
王がいくら庶子を可愛がっていても、婚姻している女性から生まれていなければ、爵位を与えられない。私生児は洗礼を受けられず、異教徒扱いされるので、神の名で爵位を授けられないのだ。
そんなわけで、妻から生まれた子どもだけが跡継ぎになる権利を持つ。
一夫一妻の文化が家族単位ではなく、一族の誇りに固執するのは、パメラのように親子の関係が希薄すぎるからである。
「勿論、50年も友好的でいてくれる国なんて、余程、遠くの国でなければできません。近くの国は近くだからこそ、交流があり、情報の更新も早く、貿易の観点からシビアな交渉になります」
セダム卿はパメラの沈黙を、50年も友好的だとは考えられないのだと、解釈した。
「・・・50年の友好というのは、夢物語なのですね」
自身も語り継ぐ気がなかったので、50年は無理だという意見はパメラも理解できる。
「夢物語になる距離と、ならない距離があるのです。夢物語だとわかっているのは、隣国です。行くだけで三か月以上かかる国は、行き来も頻繁にできないので、夢物語になりません」
「三か月で夢物語になるのですか?」
「三か月以上かかる国は、少なくとも二つ以上の国を経由しなくては行けません。二つ以上の国を一つの商隊が横切るよりも、それぞれの国が隣りの国の商会と取引をするほうが、リスクが少ないのです」
「どうして、リスクが少ないのですか? 一つの商会が国々を巡ったほうが仲介が減って、安くなるでしょう?」
「一つの国の横断に早くて1週。長くて4週。国だけでなく、領や街に入るだけで必要な費用も、その国の貴族や貴族の後見を得ている商会なら、安く済みます。また、長旅をしなくても良いという、メリットもあります」
「確かに。どの領を通るかで通行料も違いますし、領主との伝手がある場合は、通行料も優遇してくれますものね」
「そうです。その代わり、その国の評判は取引をする隣国の印象が伝わってくるので、話半分に聞くと、いいでしょう」
「だから、夢物語にならないのですね」
「そうです。実際に関わっている者が少ないので、良い評判を信じていても大丈夫な国なのです」




