パメラ・ゴードンスミスの場合11
「良い思い出ができても、ブラッド様との友諠は図られていないような・・・?」
「来訪して、良い思い出が一つでもあれば、それでいいのです。ブラッド様が友諠を結べていないと見えても、外交上は成功です」
「そういうものなのですか?」
「そういうものです。外交は一に良い思い出(好印象)、二に友情(情)、三四がなくて五に譲歩(相手にとって有利な条件)。たった一つの良い思い出が、他の悪い思い出をカバーしてくれるのです。来訪者のこの国の印象がそのまま、相手国の持つ印象になります」
「そこまで、なるものですか?」
「ある村で死亡率の高い伝染病で動けなくなっている外国の商人たちを村を上げて手厚い看護をしたら、その商人たちは、如何に親切だったか、母国で話すでしょう。それを聞いた者が噂をし、その噂は貴族たちの耳にも届きます」
「・・・!」
「村人たちから外国の商人たちが重病に罹っている、と報告を受けた領主が国に報告し、国が無事に帰国できるように医師を含む使節団が同伴したら、どうでしょう?」
「ただの商人に?」
「相手の国もそう思うでしょう。ですが、だからこそ、相手の国は自分の国の民を大事にしてくれた国だと、思ってくれます。貴族でもないのに、医師を同伴させるだけでなく、使節団まで付けて、道中の安全を図ってくれた。それをされた時、どう思いますか?」
「とても良い国だと思います」
「その通りです。帰国した商人たちから話を聞いた民衆も友好的な国だと感じます。その商人の子や孫もそう思うでしょう。たった数日の看護と使節団だけで、50年は友好的でいてくれる国が一つできます。この50年の友好というのは、非常に尊いものです。どの国も自国の利益が大事です。その為に他国が不利益を被ることなど、考慮されません。そのような相手を宥めすかして、事を荒立てないように交渉を続けて付き合って50年。その50年の友好と、こちらを慮って交渉してくれる友好的な国との50年の友好は違います」
パメラが携わる仕事の中には、外国との駆け引きを含むものもあった。どうすれば、自国にとって有利な条件になるか、その重要なポイントを探すことに、いつも苦労している。
同じ特産物があるだけで、自国内の貴族同士も緊張関係が起こり、その緩和の為の仲裁を求められる。
それだけで胃がキリキリと痛む。
それが外国とは、当事者同士になるのだ。
胃はキリキリどころか、ギリギリ痛む。
パメラは50年も胃が痛む交渉をしなくて済むと聞いただけで、全部の国と、そういう関係になって欲しいと思った。
「たったそのようなことで、50年も友好的にいてくれるのですか? 信じられない・・・」
「他人から見ればたったそのようなことでも、家族にとっては、そうではありません。家族が好印象を抱き、それを国内で話し、その国はそういう印象で我が国を見るのです」
前話を読んで、ドラマや映画でウォッカやテキーラの飲み比べ(一発逆転の協力を得る為の根性試し)を思い浮かべて頂けた方は、どれほどいたでしょうか?
さて、酒を飲んで友好を図ることにはモデルがあります。
『軍靴のバルツァー』を読んだことのある方は、市長が軍と交渉している描写を見たことがないでしょうか?
実際に首長が街を守る為に敵軍と交渉して、大量の葡萄酒を飲んでみせた話があります。
首長の飲酒も、敵軍からしてみたら余興だったかもしれませんが、その当時の建物が今も残っていることから見て、根性を認められるような偉大な行為だったのでしょう。




