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パメラ・ゴードンスミスの場合10

「飲み比べですか。テイスティングだから、酒好きの騎士たちが選ばれたのですね」


 言い直そう。深窓の令嬢であるパメラは、王宮でしか酔っ払いと遭遇する機会がない。酒好きの余興と言われても、テイスティング(利き酒)しか思い浮かばない。

 王太子も机に突っ伏していたので、何時間もテイスティングをして疲れ果てたのだろうと、思ったようだ。


「テイスティングといえばテイスティングですが、これは信用に値する人物かどうかのテイスティングです。それには、酒の量で競い合うことが一番、手っ取り早いのです」

「酒の量を競う?! どういうことですか?!」

「食後の紳士の嗜みで酒や葉巻を嗜むことはご存じですか?」

「?」


 パメラはわかっていない様子だった。

 セダム卿が言っているのは、領地での夜会や晩餐会での一般的な事項だ。

 夜会を一切、経験したことのない未成年のパメラでも、屋敷で開かれた夜会で多少は知識があるのでは、と話を振られたのだが、第二王子の婚約者として王宮で仕事をするようになる前のことなので、生憎、子どもはもう寝なさい、と言われて記憶はない。

 王宮から帰った時に見かけたかもしれないが、「来客がいるので、大人しくしていてください」と執事に言われた通りにしていたので、やはり、知らなかった。


「紳士は晩餐会の食後に、淑女とは別の部屋で交流を図る時間に、酒や葉巻を嗜むのです。当たり障りのない話で交流を深めるのですが、外国の使節や要人とは、その後、私室に招いて語り合うことがあります。今回のブラッド様がそうです」

「そうなのですね」

「ですが、私室で語り合うには、それに相応しい間柄になっていなければできません。ですから、ブラッド様は使用人用の食堂(私室以外)信用に値するか試み(テイスティングす)ることを提案されたのです」

「それが飲み比べ。ですが、飲み比べなんかで本当に信用してもらえるのですか?」

「酒というのは、理性を緩めて本音を引き出す飲み物です。飲めば飲むほど、本性が見えてきます」

「怖いですね。ですが、葡萄酒の水割りは子どもでも飲んでいますよね?」

「ええ。子どもの飲み物と言えば、エールや葡萄酒の水割りです。水で割ることで、そのような効果をなくしているので、安心してください」

「そうなのですね」


 安堵の吐息を吐くパメラの様子に、セダム卿は貴族としての一般常識の一部も説明が必要だと、心に書き留める。


「ブラッド様は残念ながらお酒が弱く、本音を語る前に眠ってしまうのです。それでは話にならないので、酒好きの騎士たちも加えて飲み比べをし、ブラッド様が眠ってしまった後も、飲み比べを楽しんでもらうのです」

「本音を引き出す為だったはすなのに、ブラッド様が眠ってしまっても、いいのですか? 話にならないとおっしゃいましたよね?」

「そこで騎士たちなのです。他にも余興として飲み比べをする相手がいるので、ブラッド様は本音を語る前に眠ってしまっても、誠意を見せていることになります」

「それって、ブラッド様より、騎士たちのほうが信用されているのでは・・・」

「そこはどうでもいいのですよ。楽しく飲める吞み仲間が王太子であろうと、騎士であろうと。飲み仲間にもならず、勝手に潰れてしまう王太子だけでは詰まらない印象しかありませんが、飲み比べの余興をする騎士たちと楽しい時間が過ごせたなら、それは良い思い出です」

「なるほど。良い思い出を作って、好印象を与える為に、酒好きの騎士たちに飲み比べの余興に参加してもらうのですね」

「そうです」


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