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パメラ・ゴードンスミスの場合9

 宰相補佐たちの婚活論議でセダム卿の目も覚めたようだ。あれだけ騒がしくしていたら、嫌でも目が覚めただろう。


「仕事が早く終われば、お前たちのしたいことをする時間もある。さっさと、食事をして戻るぞ」

「そんなこと言っても、家に帰る時間すらないじゃないか。セダム」

「各部署の若手育成が上手くいっているらしくてな、徐々に仕事を割り振っていけるらしい」

「なんだと?!」

「それは本当か?!」

「で、週に何度、帰れるんだ?」


 セダム卿はニヤリと口の端で笑う。


「無理をすれば毎日だ」

「やったー!!」

「帰れるなら、無理でもやってやる!」

「これで婚活ができるーーー!」


 約一名、婚活の時間ができたと喜んでいるが、毎日、帰宅できるだけで婚活する時間があるのだろうか?

 運良く婚約しても、婚約の維持もあるので、先程と同じように貧乏子爵を選ぶか、家に居られない文官でいるか、究極の選択が待っている。

 だが、過労と睡眠不足と糖分の切れた宰相補佐たちは気付いていない。

 喜びのあまり、テンションもさっきより高く、早朝に騒音を出している。


 セダム卿はそんな同僚を無視して、パメラに話しかけた。


「ところで、何故、ゴードンスミス嬢がこのような時間にここに?」

「朝食を取りに来たのです」

「昨夜は泊まった、ということですか?」

「ええ。屋敷への往復の時間が勿体なくて」

「まさか。あなたまで、とうとう・・・?」


 濁された言葉にパメラは首を横に振る。


「婚約者のことで、色々、ありまして」

「ああ・・・」


 それだけで、セダム卿も理解した。宰相補佐たちはパメラが野放しにされている第二王子の仕事をさせられていることを知っている。その上、あの婚約者の手綱を握るなど、一日が二十四時間である限り、無理な話だ。

 そういった無茶振りをするのが、王族と高位貴族だ。各部署のトップである大臣たちは世襲制の高位貴族で、実務はすべて文官が担っている。そのせいで、トップに近い文官ほど、家に帰る回数が減る。――かつての宰相補佐たちのように。

 トップに近いということは、人数だって限られてくる。

 その限られた人数で大臣が納得する仕事をしなければならないのだ。

 はっきり言って、無茶振りである。

 大臣がその部署の専門知識や経験があるというなら、今の人数でもどうにか回せるのだが、生憎、そうではない。


 尊い血。それだけで就ける大臣の座。国主の座。

 彼らがその役職に相応しくない実力を隠すには、実態を知る文官は少ないほうが良い。その結果の長時間勤務だ。

 誰かが帰れない日が出ただけで、『ようこそ、地獄へ』の気分になる。


「でも、どうして、我々の前に? 追い越したおぼえもないのですが?」

「ええ、実はまだ朝食を取っていないのです。食堂に入ろうと思ったら、ブラッド様が居りまして、驚いて出てきてしまったのです」

「ああ。ブラッド様ですか。バリエイ国からの訪問がありますし、こちらに来たのですね」

「バリエイ国の方が来たからと、どうして、ブラッド様が使用人用の食堂に?」

「ここはずっと開いていますから、酒好きの騎士たちが一晩中、いるのです。ブラッド様は彼らにバリエイ国からの客の余興をしてもらっているのです」

「余興、ですか?」


 王宮で酔っ払いと遭遇したことのないパメラは、酒好きと余興と言われても、何も思い浮かばない。


「簡単に言えば、飲み比べです」

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