狼の遊び
眠りの浅い朝方、ウォードは夢を見た。
クリスティナがぺたりと座り床で本を広げている。
ウォードには見覚えのある光景だが、それを正面から見ているので、夢だと思い当たった。
クリスティナの傍らには白鳩。羽先が薄桃色なのはあり得ない、やはり夢だと思う根拠になる。
そしてクリスティナの左後ろ、肩越しに本を覗く位置に大型犬がいる。
狼のように見えるのは、寝る前にブレアと「はぐれ狼」の噂話などしたせいだろう。
クリスティナが熱心に小鳩に語りかけ、小鳩が理解しているかのように小首を傾げる様子を、ウォードは微笑ましいものとして見つめていた。
不意に狼が尾を動かした。狼は長尾ではないが、クリスティナの肩に届く。左にいるのに触れたのは右肩だ。
「?」
クリスティナが右から振り返る。なにもない。
不思議そうにしながらも、また本に戻る。
ちょいちょい。しばらくして狼は、また同じ動きをした。
「?」
当然クリスティナも同じように振り返る。そしてまた誰もいない。
ゆっくりと左肩越しに狼を見た目は猜疑心に満ち溢れていた。
じいっと穴が開きそうなほどクリスティナが見つめても、狼の態度はまったく変わらない。長く見つめ合い、先に諦めたのはクリスティナだった。
そして。
「やっぱり、はうるちゃんだったんじゃない! どうしてそうやって邪魔をするの!?」
クリスティナが叫んだ。狼の尾が三度目に肩に触れるまさにその時に横を向いて、犯人を特定したのだ。
狼は口を開けて赤い舌を出し、にやりと笑っている。対して半眼で晴れない顔をする小鳩は、最初から流れを知っていたかのよう。
「嫌い、嫌いになっちゃうよ! いいの? 本当に嫌いになるからね」
ぷりぷりと腹を立てて脅しているつもりだろうが、ウォードから見れば生ぬるい。狼は、三度目は見つけさせるつもりでいた。
クリスティナの言動が狼を喜ばせていると、尾の動きからも伝わる。
いまいましい狼め。
夢とはいえ、無性に腹立たしく思っていると、見えないはずのウォードを、金眼が真っすぐにとらえた。
吠えるかと思えば、首を伸ばしていきなりクリスティナの頬を舐める。
「あっ、最悪。よだれがついちゃったじゃない。だから、もうっ。どうしてそういうことするの!」
音がしそうなほどに頬をこするのを、狼は面白がっている。
クリスティナ、なぜ分からない、それもまた狼を愉しませるだけだ。
そう言おうとしたところで、ウォードは目覚めた。