表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/146

狼の遊び

眠りの浅い朝方、ウォードは夢を見た。


 クリスティナがぺたりと座り床で本を広げている。

ウォードには見覚えのある光景だが、それを正面から見ているので、夢だと思い当たった。


 クリスティナの傍らには白鳩。羽先が薄桃色なのはあり得ない、やはり夢だと思う根拠になる。


 そしてクリスティナの左後ろ、肩越しに本を覗く位置に大型犬がいる。

狼のように見えるのは、寝る前にブレアと「はぐれ狼」の噂話などしたせいだろう。



 クリスティナが熱心に小鳩に語りかけ、小鳩が理解しているかのように小首を傾げる様子を、ウォードは微笑ましいものとして見つめていた。


 不意に狼が尾を動かした。狼は長尾ではないが、クリスティナの肩に届く。左にいるのに触れたのは右肩だ。


「?」


 クリスティナが右から振り返る。なにもない。

不思議そうにしながらも、また本に戻る。


 ちょいちょい。しばらくして狼は、また同じ動きをした。


「?」


 当然クリスティナも同じように振り返る。そしてまた誰もいない。

ゆっくりと左肩越しに狼を見た目は猜疑心に満ち溢れていた。



 じいっと穴が開きそうなほどクリスティナが見つめても、狼の態度はまったく変わらない。長く見つめ合い、先に諦めたのはクリスティナだった。



 そして。

「やっぱり、はうるちゃんだったんじゃない! どうしてそうやって邪魔をするの!?」


 クリスティナが叫んだ。狼の尾が三度目に肩に触れるまさにその時に横を向いて、犯人を特定したのだ。


 狼は口を開けて赤い舌を出し、にやりと笑っている。対して半眼で晴れない顔をする小鳩は、最初から流れを知っていたかのよう。



「嫌い、嫌いになっちゃうよ! いいの? 本当に嫌いになるからね」



 ぷりぷりと腹を立てて脅しているつもりだろうが、ウォードから見れば生ぬるい。狼は、三度目は見つけさせるつもりでいた。

クリスティナの言動が狼を喜ばせていると、尾の動きからも伝わる。

いまいましい狼め。



 夢とはいえ、無性に腹立たしく思っていると、見えないはずのウォードを、金眼が真っすぐにとらえた。

 吠えるかと思えば、首を伸ばしていきなりクリスティナの頬を舐める。



「あっ、最悪。よだれがついちゃったじゃない。だから、もうっ。どうしてそういうことするの!」


 音がしそうなほどに頬をこするのを、狼は面白がっている。


 クリスティナ、なぜ分からない、それもまた狼を愉しませるだけだ。

そう言おうとしたところで、ウォードは目覚めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ