はぐれ狼または一匹狼
ブレアを侍従と言ったものの、身の回りのことをさせるつもりはない。
世話は不要であると女中を納得させるための出任せだ。
侍従としたことで使用人部屋を備えた客室があてがわれたので、ブレアを呼び出す手間が省ける。
今も使用人部屋の寝台にウォードが寝転び、ブレアは小さな書き物机の椅子に座る形でふたり話していた。
マクギリス伯爵家と親しいとされてきたアガラス家が、シンシア・マクギリスを匿っている可能性は充分にある。
そう考えを述べるブレアに、ウォードは「だろうな」と短く返した。
「アガラス家に探りをいれるおつもりで、招待に応じたので?」
「いや」
父とアガラス家当主の間で決まった話で、自分の意見を挟む余地はない。
ウォードと違いブレアはいまだにシンシア・マクギリスを見つけ出すことが「若様」の面目を回復することに繋がると考えているらしい。
ウォードの否定に、思いがけないことを聞いたと言いたげな表情になる。
「実際にシンシア・マクギリスを匿っていたとしたら、俺が来る前に別の場所に移すだろう。元々本邸に置いていたとも限らない、人が多ければ情報は漏れやすい」
「それはそうですが」
歯切れの悪い返事をし「それでも少し探ってみますか」と食い下がるブレアを「ムダだ、やめておけ」と止める。
父の副官としてブレアは名が知れている。探るつもりなら別の者を連れてきた。供にしたのは他にして欲しいことがあったからだ。
「ここからルウェリンの城は近いな」
「はい」
地図で見る限り、熟練の乗り手なら一日あれば馬で行ける距離だ。城に出入りする商人が店を構えているだろう中規模の町が間にある。
聞き込みをするなら、そこだ。
「一週間あればアガラスの状況はそれなりに分かる。ブレアはルウェリンを頼む」
「はぐれ狼の」
馴れ合いを良しとしない家風とされ、秘密主義とか孤立主義と言われるのは内情が見えないから。
時として一匹狼、はぐれ狼と称されるのは多分にからかい混じりだ、とブレアは言う。
「承知しました。そういえば、山賊の子の足取りが途絶えたのもそう遠くない辺りでしたか」
ふと思いついたように、ちらりと視線を寄越す。
「そうだったか?」
ウォードは素知らぬ顔で手枕を外し、仰向けになった。察しの良いブレアだ、これでもわざとらしく感じただろうが、追求はしてこない。
「若様、お休みになるならご自身の寝台でどうぞ」
なにもかも承知しております、という態度が気に入らない。
「ふん」
ウォードは固く目を閉じた。
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