女中メイ
ウォードが慣れない眼帯などしているのは、縁談よけとダンス辞退の理由作り。
男子十七歳、結婚には早いが婚約するには早すぎるという年齢でもない。娘婿にと考える親は多い。
アガラスの子息ローガンは二十代半ばで婚約中と聞く。
他にこの辺りで名家と言われるのはルウェリンだが、独身とはいえラングは若くして既に当主となっており、嫁ぐにはそれなりの覚悟がいる。
その点まだ父が元気で若様扱いの自分が御しやすく思われているのは、ウォードも理解している。
結婚も婚約もいずれ避けては通れないが今でなくていい。
ダンスは練習から逃げていたら不得手になった、それだけのことだ。
ウォードが長時間の晩餐会から解放されて部屋に戻ると、廊下で待っていたのはヴァイオレットの女中だった。
「まだなにか」
「夜のお支度に参りました」
丁寧に一礼する。
「アルキミア嬢付きと聞いたように思うが」
「ヴァイオレットお嬢様にはお連れになったメイドもおりますので、私はハートリー様のお世話をするようにと」
好みを探ろうと考えてなら、熱心なことだ。
「心遣いはありがたいが、自分のことは自分でするのがハートリー流で、ひとりで着られないような服は持ち合わせていない。部屋を整えるのは不在の間に頼む。それ以外は構わないでくれ」
先にはっきりさせておくのが、お互いのためだ。
「連れてきたブレアという名の侍従が部屋に出入りする。聞きたいことはブレアに」
なにか言おうとしていた女中は、ここまで言えば諦めたような顔をした。
それもまたクリスティナに重なるのは、口元が似ているせいだ。
「名を聞いておこうか」
「メイと申します」
名乗った女中の瞳は、クリスティナとは違う特徴のない色。
些細なことをクリスティナに結びつけようとするのは我ながら閉口する癖だ。
でも口元はやはり似ている。
ブレアにそんなことを言えば「顔がそっくりな者は三人いると言いますから、一部が似ているものなどその百倍はおりましょう」と返してきそうだ。
下がってくれとメイに示して、ひとり部屋に入る。
父にはそろそろ社交の場に出て付き合いを広げる年齢だと言われた。ウォードの正式な社交界デビューは、ウィストン伯爵家の舞踏会と決まっている。
今回は演習のようなもの。ブレアの言う通りにしておけばいい。
「しかし、見づらい」
遠近感が違う。むしり取った眼帯を寝台に投げ、顔をしかめた。
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騎士四家
*山猫の家ハートリー
ウォードの父が当主。マクギリス家に代わり城砦を手に入れた。
*クサリヘビの家アガラス
兵力に乏しい騎士家。現在ウォードが滞在している。同じく滞在している令嬢ヴァイオレットは当主の姪。
*狼の家ルウェリン
クリスティナが身を寄せている。フレイヤ・スケリット元男爵夫人が当主ラングのことを探る為に滞在中。
*カラスの家マクギリス
ハートリーに城砦を奪われた。生死不明の伯爵令嬢シンシアの他に、亡き伯爵の弟(アンディの義父)一家が、離れた都に暮らしている。
クリスティナの母メイジーはシンシアの子守りを仕事としていた。




