フレイヤ・スケリット 1
小さなお友達ティナちゃんはハンカチを喜んでくれただろうか。
フレイヤ・スケリットは昨日置いた若草色のハンカチのなくなったベンチに目をやり、まだ顔を見たことのない女の子を想像した。
最初に置いてくれた花は自分にくれるつもりだと思わず、誰かが忘れたのかと、そのままにした。
置きっぱなしにしてしまったから、悲しい気持ちにさせたのではないかしら。会えたらまずそれを謝りたい。
メッセージカードつきのヒイラギは、文字まで可愛らしく彼女の優しさが伝わってきた。
私の知らないうちに、私を見ていたのだとしたら、この中庭に面した部屋のどこかだ。
先ほどぐるりと見渡した時に、ひとつそれらしい窓を見つけた。どの窓も同じくらい曇っているのに、その窓特に下の方だけ磨かれている。おそらくあの窓からこちらを見おろしていたのだ。
日中は、彼女はなにをしているのかしら。私みたいに一日中暇を持て余してはいないようね。
膝に乗せた本の上で指を組んで、軽く首の凝りをほぐす。
「ティナ 九歳になったばっかり」
お返事は「フレイヤ・スケリット 二十五歳」としようかと思って、他の誰かに持って行かれた時に、年齢はさすがに恥ずかしいと止めた。
この中庭は元々人通りがないのか、よそ者である自分がいるので皆避けているのか、とにかく人が来ない。
こちらからは廊下を歩く人々が見え、なんとなくの様子がつかめる。
中庭で風がないことも気に入って、毎日数時間をここで過ごしていた。
男爵位を望み申請してきた地方騎士ラング・ルウェリンには少女を愛する癖があるらしい。
フレイヤに教えたのは、官職に就いている叔父。
まったく知らない男の名をいきなり出されるのは、これで三度目となる。
一度目の男性と結婚しほどなく未亡人となり、二度目に紹介されたかなり歳上の男性と結婚し再び未亡人となり、フレイヤは元男爵夫人の称号を手に入れた。これは称号とは言わないか。
でもおかげで社交界の扉は開いたままだ。叔父が高齢の男性を勧めたのは、それが目的であってのこと。
三度目の紹介も一応結婚相手として勧めるていを取ってきたが、爵位授与に関する部署にいる叔父の仕事絡みだった。
『私、再再婚になりますけれど』
聞けばルウェリン様は未婚でいらっしゃる。再婚ならまだしも再再婚の女を妻にするのはお嫌だろうと思う。私がルウェリン様だったら、絶対にお断り。
なのに叔父は澄まして言う。
『そこは言わずに押しかければ、向こうだって邪険にはできないさ。爵位が欲しいのだからね。フレイヤは傷心旅行中で近くまで来ましたと言って、私の名を出せばいい』