心のこもるやりとり
名前を書いたらお名前を教えてくれた。これはもうお友達と言っていいんじゃない? うん、言っていい。
クリスティナがルウェリン城(と呼ぶことにした)に来てから、一番嬉しいことだ。
もうすぐ春になる。春になったらお花も増えるし、香草をまとめたスパイスブーケも作れる。
作って料理人にあげたらきっとお返しになにかくれる。それをまたお姉さんにあげれば、絶対に仲良くなれる。
目標達成への道筋が見えたクリスティナにとって、ここでの日々はとてもやりがいのあるものに変わった。
と言っても、春まではまだ間があるのだが。
大事にしていたウォードにもらったキャンディの最後のひとつは、アンに残してきた。
だから荷物袋を何度ひっくり返しても、お姉さんにあげるような物がないのがとても残念。
良かったのは中庭のベンチなど誰にも注目されないこと。
クリスティナが置いたドングリや特別すべすべの丸い石も、ちゃんとお姉さんの手に渡る。
ある日、若草色のハンカチがあった。忘れ物かもしれないと思いながら自室に持ち帰って、広げた瞬間、奇声が出るかと思った。
オレンジ色の糸で「ティナ」と名前を刺繍してくれている。これは私のもの。嬉しくて叫びそう。
ぜひともぴぃちゃんを呼んで、見せてあげるべきでは。はうるちゃんの来る前に急いで解散すればいいのだし。
決めたクリスティナの行動は早い。
「ぴぃちゃん、見て見て。いいものをもらった」
言い終わる前に、羽の先が薄桃色の白いカラスぴぃちゃんが現れた。
この早さは、姿を見せないだけでいつもすぐそばにいるということなのだろう。そんな気はしていた。
「ぴぃちゃん、中庭でご本を読んでいるお姉さんにもらった。すごく素敵じゃない?」
思いっきり見せびらかして自慢する。ぴぃちゃんのちょちょいの動作は「いいです、それすごくいい」だ。
「でしょう? え、なに」
ぴぃちゃんが頭を抱える仕草をする。次の動きがよく分からない。
「ちょっと難しい、ぴぃちゃん。『言いたくないけど、はうるちゃんが邪魔してる 』?」
クリスティナの解釈に、ぴぃちゃんが元から丸い目をさらに丸くする。違ったらしい。
「あ、ごめん。逆? 『はうるちゃんが、邪魔されないようにしてる』?」
そうですそうそう、のダンスがいつもより俊敏だと思ったら「では、ぴぃはこれで!」と、瞬時に姿が消えた。
そんなに早く動けるなんて驚きだ。クリスティナが見送る暇もない。
理由は簡単。長くなると、はうるちゃんが来て「礼を言いたきゃ聞いてやるぜ、ふっ」と恩着せがましい態度を取るのだろう、きっと。
ぴぃちゃんの言うことが本当なら、中庭でのやりとりが見咎められないのは、はうるちゃんのおかげらしい。
はうるちゃん、いいところがある。
してもらったら、お礼はちゃんと言わなくちゃ。
「ありがとう、はうるちゃん。これからもよろしくお願いします」
声に出すと、空気が揺れた気がした。




