騎士家の騎士団
面会した部屋にいた男の人は、翌日クリスティナの部屋を訪れて使用人頭のフェリーと名乗った。
「頭のフェリーさん」
「頭は不要です。『フェリーさん』と呼びなさい」
頭は「オヤジ」と呼ぶものだけど、少し馴れ馴れしいかと考えたクリスティナが気を遣って「かしら」と呼んだのに、見て分かるほど唇の端が下がる。
「今後の方針が決まりました」
お勉強の時間、散歩の時間、野菜や薬草を育てる畑仕事の時間、お裁縫の時間、なんと乗馬の時間まで。他に自由時間があるらしい。
食事は適当な時間に調理場の隣にある使用人食堂に行くよう言われた。
クリスティナは確信した。ご当主様に会ってすぐに待遇が変わったのは、体を褒めたから。やっぱり鍛えている野郎は肉づきを褒めるに限るのだ。
残念なことにフェリーさんはご当主に比べると、体格的には見劣りがする。無理をして褒めてもお世辞だと丸わかりなのが難しいところ。
「なにか不服でも?」
首を横に振るクリスティナに渋い顔をする。
「この娘のどこに見どころがあると思ったんでしょうね、ご当主は」
「質問がなければ、これで」と言われて、聞きたかったことを急いで口にする。
「ルウェリン様は騎士家と習いましたが、団員もこのお城にいるんですか」
遠い記憶になった城砦での日々、城内はここより人が多く騒々しかったような気がする。
フェリーさんは、そんなことも知らないのか、という雰囲気をあからさまに出した。
「騎士家の『騎士』は、騎士団を持つことを意味するわけではないのは常識でしょう。『騎士』とは地位を表すものです」
城砦には騎士団があったから、
「騎士四家にはどこも騎士団があるのだと思ってた」
「子供向けの昔話を聞いたのですね。あんな古臭いものを維持していたのは、マクギリスくらいのもの。ハートリーは本家の警護隊を本業として団員数を保っています。アガラスもうちと同じで守衛しかおきません」
クリスティナは目を丸くした。思っていたのとずいぶん違う。
かわいいぴぃちゃんと美猫にゃーごちゃんが騎士団持ちで、オヤジ系はうるちゃんと悪そうなずるちゃんには騎士団がないんですって。それは意外。
これ以上子供の相手は面倒だと思ったのか、使用人頭は一方的に話を切り上げて部屋を出ていった。
なぜ薬草を育てるのか。答えは「ケガをした時に、近くに医者がいるとは限らないから」。
昔、騎士団が戦っていた頃の名残りらしい。




