狼のはうるちゃん・4
ばか狼。謝らなくていい、私「いいよ」なんて言わないから。
クリスティナは心の内で悪態をつきながら、元の大きさに戻ったぴぃちゃんを桶に入れて、湯を手ですくってはかけていた。
もらって時間のたったお湯はとてもぬるく、クリスティナが自分の足まで洗ってしまった後なので、綺麗とは言いがたい。それでもヨダレまみれよりはいいと思い、丁寧に洗う。
はうるちゃんのヨダレが無臭だったことだけが救いだ。ぴぃちゃんが臭くなったら、泣けてきちゃう。
ぴぃちゃんはお湯が気持ちがいいのか、うっとりと目を閉じている。もう汚れはとれたからお湯から出てもいいけれど、もう少しぽちゃぽちゃすることにする。
はうるちゃんは少し離れたところで、堂々と座っている。神妙にしているだろうか、と横目で様子を窺うクリスティナと目が合うと「ふっ」と笑うのが、いけ好かない。
「そんな怒んなよ。ちょっとからかっただけだよ。ごめん、ごめんて」とでも言っている、きっと。
「ちょっとお顔がいいくらいでおごってると、いつか痛い目に合うんだからね」
親切にも教えてあげる。これは「武勇伝」とやらを語る野郎に、ジェシカ母さんが言っていたこと。
ヒゲがあるからみんな同じお顔で誰がかっこいいなんてない、と思っていたクリスティナは、おヒゲのお顔にも良し悪しがあることを初めて知ったのだった。
ぴぃちゃんが薄目を開けてこちらを見る。
ぴぃは怒ってない、はうるちゃんは会うといつもこんな感じだから。
理解はこれでだいたい合っているだろう、でも。
「そうやって皆が甘やかすのがダメなの」
クリスティナがぴしゃりと言うと、ぴぃちゃんが萎んだ。
あれ、被害にあったぴぃちゃんがしゅんとなるのはなにか違う。
はうるちゃんから、とりなす気配が漂う。大人の余裕を感じさせる大物感はいったいなに。
「ぴぃに当たんな。悪いのは俺だろ、当たるなら俺に当たれよ」だとしたら。
「だから! 悪いのは、はうるちゃんでしょっ」
オヤジによく似たまったく反省の色のない狼に向かい叫ぶと、狼は「おいおい、大声だすなって。狭い部屋なんだ聞こえてるっつうの」というように、首をすくめた。
今すぐこの狼に勝てる熊を探しに行きたい。




