狼のはうるちゃん・3
はうるちゃんは野性的な狼だったのだ。ぴぃちゃんが「仲悪くない」と思っていても、あっちは「おいしそうだな」と眺めていて。
鶏大になったら食欲が勝ってしまったのだ。白くていかにも柔らかそうな骨ごといけちゃうお肉にしかみえなくなってしまった……。
現実が受け入れられなくて、なにも今しなくてもいい推測をしてしている。
それどころじゃなかった、とクリスティナは我に返った。
「お口を開けなさい、はうるちゃん! お友達を食べちゃダメでしょ! このバカ犬!」
厳しい叱責を受けて、野性味溢れる狼はさらに金眼をギラつかせる。
咥えられたぴぃちゃんは、とうとうつま先立ちになり力の抜けた足はダランとしてしまった。
「ぴぃちゃん、頑張れ。今、助ける!」
はうるちゃんの口をこじ開けるしかない。
怒らせて私も食べられてしまったとしても、見殺しにしたことを悔やんで生きていくよりずっといい。
たとえぴぃちゃんの体が真っ二つになっていても、取り戻したほうがずっとずっといい。
クリスティナが腕を伸ばした時、前触れなく狼が口を開けた。
よろけながら床に立ったぴぃちゃんは血だらけ……ドキドキしながらも必死で見つめる。
「あれ?」
食われる前と変わらない姿で白さもそのまま、どこも赤くない。よだれで羽が濡れているだけだ。
クリスティナははうるちゃんを見た。
金眼がにんまりとしている。大きなお口から出た赤い舌とあわせて「してやったり」の表情だと思う。
「……はうるちゃん?」
呼ぶと「びっくりしたか? ホントに食ったかと思ったか。なあ、なあ」と言った――気がする。
これは覚えがある。オヤジが時々したヤツだ。
お外から帰るとオヤジがいて、私が食べようと思っていたお菓子を「クリスのだったのか。全部食っちまったぞ、名前が書いてなかったからな」と言ったので、泣いちゃったことがあった。
実は食べていなくて、にやにやしながら出してきた。
それでまたオヤジに騙されたことが悔しくて、大泣きしたんだった。
あの時はジェシカ母さんがオヤジをものすごく叱ってくれて、麺棒で頭をゴツンとしてくれたっけ。
つまりはうるちゃんは、私をからかったんだ。本当に嫌、そういうの嫌い。全っ然面白くない。
クリスティナの目がつり上がった。猛抗議をさせてもらいたい。
ご満悦でまだ笑いのおさまらないはうるちゃんに腹立ちは増すばかり。
と、ぴぃちゃんの体が傾いだ。かわいいお尻がぺたりと床につく。
「ぴぃちゃん!!」
腰が抜けたのかもしれない。クリスティナは慌てた。