狼のはうるちゃん・2
ぴぃちゃんひとりに押しつけてかばってもらうだけなんて、頭の娘クリスの名がすたる。
ここは私が仲をとりもたねば。クリスティナは覚悟を決め、ご挨拶のために腰をかがめた。怖い、怖いけど。
「はうるちゃん、こちらはカラスのぴぃちゃんです。山猫にゃーごちゃんのお友達なの。知ってるでしょう? にゃーごちゃん。前に会って、はうるちゃんどうしてるかなぁってお話になったの」
お話になったかどうか、本当のところは知らない。なぜなら私と使う言葉が違うので。
でもなにか話し込んでいるような雰囲気があったのは本当だから、ちょっと作り話でも許されると思う。
そういうところがクリス、とアンディがいたら呆れることだろう。
瞬きひとつしないはうるちゃんに、繰り返す。
「私がクリスティナ」
胸に手を添える。
「こちらがぴぃちゃん」
ぴぃちゃんの頭の毛をそっと撫でる。手触りがいい。
「で、あなたがはうるちゃん」
指を揃えてはうるちゃんに向けた。剛毛っぽいけれど、とても艶のある毛並み。
灰褐色の強面に「ちゃん」はどうなのか。でももう後には引けない。
どうしてかと言えば、他のお名前を考えていなかったから。
「はうる」で耳がぴくりと動く。そして重々しく、ひと足前へ出た。
後ろから見るクリスティナには、ぴぃちゃんの腰が引けたのがよく分かる。
「ご挨拶よ、ぴぃちゃん。『久しぶり、会えて嬉しい』って。ほら、ほら」
囁いてもぴぃちゃんは石化したように動かない。
さすがに待ちくたびれたのか、はうるちゃんの金眼がギラリと輝く。
じぃっと見つめ合うと――はうるちゃんが大口を開けた。
「?!!」
ぱくり! 音がしたような気がして、クリスティナは固く目を閉じた。
違う、閉じてる場合じゃない。慌ててすぐに目を開ける。
「ぴ、ぴ、ぴぃちゃんっ」
ぴぃちゃんの体で見えているのは、二本の足だけ。あとは、はうるちゃんのお口のなか。その状態で金眼がこちらを睨むから、怖い。この上ない恐怖でクリスティナは縮み上がった。
「ぎゃ、ぎゃあ! ぴぃちゃん! はうるちゃん! ぴぃちゃん!」
お口を開けて。ぴぃちゃんを食べないで。うん、私も鶏の大きさになった時に、ちらっとおいしそうな大きさになったなと思った。
でも思うのと実行に移すのは別の話だ。思うのはいいけど、食べちゃだめ、だめなの。
横っ面をひっぱたいて、実力で取り返す?
だめ、ぴぃちゃんに牙があたったら致命傷になる。
と言うより……無事なの?