不安の先・3
北向きの寒い部屋で、クリスティナには長いと感じる時間ひとりにされた。
このまま忘れられたらどうしようと心配になる頃、ひょこっとおじさんが顔を覗かせた。
「おじさん」
なんだかもう懐かしい。
おじさんも、立ち上がったクリスティナに「おお」と愛想よく挨拶する。
「お金もらえた?」
「いや、今日は手間賃だけだ。あとは見定めてからで、出直すよう言われた」
まるでクリスティナが仲間であるかのように、少し渋い顔をしてみせる。
「見定めるって、私が本物かどうか?」
誰かに聞かれたら困ると思うクリスティナの声は小さくなる。
「そういうことだ。この後もできるだけうまくやってくれると嬉しいね」
「がんばる」
多少のやる気を見せると、おじさんは意外そうな顔つきをした。
「私に金が入るかどうか、君には関係ないと思うがね」
もちろん分け前をよこしてくれるなんて勘違いはしていない。
「だって、おじさん。お金はないよりあったほうがいいでしょう」
どのみちこの家にお世話になるのだし、私の行動でおじさんにお金が入るなら協力する。
「なんというか、すごい子だね」
誉められてクリスティナは胸を張った。だって山賊の子だもの、そこらの子供と一緒にしてもらっては困るのだ。
にひっと笑ってみせると、おじさんはきまり悪そうな様子になった。
「金儲けのタネにしてすまないね。謝られても困るだろうが」
そんなことはない。大人は子供になかなか謝れないものだ。
「いいの。しっかり稼いで」
馬車のなかで考えていた。おじさんはアンディを騙したのと同じような詐欺師ではないかと。
アルバ夫妻が一味かまでは分からないけれど、一年クリスティナを養育してシンシア・マクギリス風に仕立てるにはお金がかかる。
なんとも仕込みに手間とお金のかかることをするものだと、クリスティナは感心した。
兵隊さんが渡した分では足りないにきまっている。それに餞別だと言って小金を持たせてくれたし。
かかったお金以上に稼がなくては意味がない。
アルバさんちで教えることはもうないと夫人が言っていた。割り切って考えれば、これは上の学校へ移るようなもの。
クリスティナが自分の考えを披露すると、黙って聞いていたおじさんが真顔になった。
「シンシア・マクギリス。君は伯爵令嬢なんだ。このルウェリン家は騎士家で、今の家格はマクギリス家が高い。だから堂々と言いたいことは言い、扱いが不当だと思ったら強く主張するんだ。それが使用人の反感をかっても、ルウェリン様は『それこそ伯爵家の娘』とみることだろう。顔を上げて生きていきなさい、それこそが君の立場を強くする」
クリスティナにはちょっとお話が長くて、全部が分かった気はしない。
「おじさん、いい人みたいなこと言う」
詐欺師なのに。あれかな、オヤジが山賊のくせに「成功するために必要な三つのこと」とか語って、野郎どもに大きな顔をするのと同じ。成功もしていないのに。
「はは、おかしいか。おかしいね」
「でもありがとう、うまくやってみせる」
照れ笑いするおじさんとクリスティナは共犯のように別れの握手をした。




