さよなら アン
掛布を頭からかぶってアンとおしゃべりをする。
「ティナ、嫌なの?」
「そりゃあね」
ここアルバさんの家がいいのかと聞かれればそうでもないけれど、ここにはアンがいる。
「シンシア・マクギリスと名乗れ」つまり、お嬢様になりすまして誰かを騙すのだ。クリスティナには良くないことに思える。
それなら強盗の引き込み役は悪くないのか、とは聞かないで欲しい。お仕事ですから。
「ティナが嫌なら、アンが行こうか」
「アンが?」
薄暗いなかで、アンがこくりとした。
「ティナ、心配だから」
「私よりアンのほうがよっぽど心配」
「……そう?」
「そうそう」
ティナが不思議そうにする。ここははっきりしておかないと誤解が生じる。
そもそも私達がなにを言っても、大人のいいようにするに決まっている。クリスティナには理解できるのに、アンには分からないところがもう、アンには無理なのだ。
「ティナが行くならアンも行く」
良いことを思いついかのように、声を弾ませる。
それもできない相談なのに。クリスティナの胸が詰まる。
アンディのようには、アンとは仲良くなれなかったと思っていた。でもこんなに一生懸命考えてくれている。
なにをさせられるか分からない次のお家に、アンを行かせられない。絶対に自分が行くほうがいいと思う。
だって私はアンよりふたつもお姉さんなんだから。
クリスティナはアンの頭をなでなでした。
「待ってて。いいおうちかどうか分からないから、私が先に行ってみる。それでよかったらアンを呼ぶ」
アンからお返事がない。
「居心地の悪いおうちかもしれないのに、ふたりも行くことない」
力説すると。
「そう?」
「絶対にそう」
分かってくれたみたい。クリスティナは胸を撫で下ろした。
さっきとなにかが変わったわけじゃないのに、心が軽くなったような気がする。アンのおかげだ。
「アン、ありがとう。私が立派になったら会いに来るね」
「ならなかったら?」
「へ……」
そう来るとは思わなかった。
「ねえ、ならなかったら?」
その時はどうするのか、早く教えてくれとアンがせがむ。気の利いたお返事を考える暇もない。
「ならなくても。自分で行きたいところへ行けるくらい大きくなったら、一番最初にアンに会いに来る」
アンはまだ子供だから忘れてしまうかもしれない。でもお約束は果たそう。
あれ。静かだと思ったら、アンは眠ってしまった。体のくっついているところが、温かい。
明日は言えないかもしれないから、聞いていなくても言っておこう。
「アン、仲良くしてくれてありがとう。会えてよかった」