訪問客とふたりのシンシア・2
クリスティナとアンは翌日の昼下がりに、また客間に呼ばれた。
「ふたりお連れになっても構いませんよ」
アルバ夫人が上機嫌に言う側でアンは平然とし、クリスティナは昨日の訪問者を凝視していた。
「奥様、ご冗談を。シンシアがふたりになっては、それこそどちらかが偽物だとなりますよ」
はは、ほほ。どこが面白いのか、大人だけが笑い合う
「いつお発ちになりますの?」
「明日にでも」
眼の前で繰り広げられる会話は、どうやら私に関係することらしい。ここまで黙っていたけれど。
「誰かどこかへゆくのですか」
男性より先にアルバ夫人が口を開く。
「ええ。シンシア・ティナ。落ち着いて聞いてちょうだい。今まで黙っていたけれど、あなたの本当のお名前はシンシア・マクギリス。マクギリス伯の娘さんなのよ」
驚きすぎて逆にぼんやりとしてしまったクリスティナをどうとったのか、アルバ夫人が親しげな笑みで気遣う。
「ええ、ええ。驚くのも無理はないわ。私も最初は信じられなかったもの。でも、こちらの紳士が『もしや』と手をつくしてくださった結果、確信できたの」
アンの平常心が今ほど羨ましいと思ったことはない。クリスティナは言いたいことがありすぎて、逆に言葉に詰まるという初めての状態に陥っている。
「そんなはずない」
ようやく絞り出した。
「幼すぎて覚えていないのも無理はない」
「ええ、そうよ。とても言葉では言えない経験をしたのですもの。記憶が抜けているのも当然よ」
この人達はなにを言っているのだろう。薄気味悪く感じてクリスティナが半歩後じさると、アンが手を繋いできた。
はっきりさせるべきだと思った。
「私はクリスティナで、シンシア・マクギリスじゃない」
眉を一瞬持ち上げたアルバ夫人が、微笑する。
「突然のことに混乱したようですわ。しっかりしていても子供ですからね」
「そうでしょうな。道中時間はありますから、言って聞かせましょう。本人にとってもいい話なのですから。――この子は話せば分かる子なのでしょう?」
「ええ、利発です」
勇気を出しての名乗りは、取るに足らないものとして聞き流された。
クリスティナとアンをいないもののようにして、大人同士のおしゃべりは続く。
「ティナ」
聞こえないくらい小さな声で「お部屋にもどろう」とアンに手を引っ張られても、クリスティナは動くことができなかった。