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訪問客とふたりのシンシア・1

 見知らぬ子を育てるアルバ夫妻は、良い人なのだろう。飢えさせず、洗濯をした服を着せ、教育を施す。働けと言わない。


 挙げると同じなのに、ジェシカ母さんのようにどこでもついて行きたい気持ちにならないのは、どうしてだろう。考えてもクリスティナには、これという答えが見つからない。



 アルバ夫人が「これくらい知っておけば、田舎貴族の娘としては充分でしょう」と言った翌週、クリスティナとアンは訪問者に挨拶するように、と客間に呼ばれた。




「それで、この子は『シンシア』と呼ばれて自然に反応できますか」


 尋ねるのはクリスティナと兵隊さんをアルバ夫妻と会わせた男性だ。

夫妻に仕えていると聞いたような気がするのに、顔を見るのはあの日以来のこと。


 じっと見つめられて落ち着かない気持ちを、懸命に抑える。 



「もちろんです。シンシア・アン、シンシア・ティナと呼んで教育しましたから」


 アルバ夫人は得意げ、男性は満足げ。クリスティナは嫌な雰囲気を察知し、アンはいつもの通り。



「で、どちらになさいます?」


 挨拶が済んで客間を出る時、たしかにアルバ夫人はそう言った。





 クリスティナとアンはすぐに部屋に戻った。

ここに来てから季節はひと巡りした。最近のお勉強は何と言うか……仕上げにかかっている気がしていたのだ。


 どちらになさいます。どちらになさいます?

どういう意味だろう。


 オヤジのように組んだ腕に触れるものがあった。アンの手だ。


「お顔が変」


 真顔で言う。怖いお顔とか難しいお顔とか言いようは別にあるでしょうと思うけれど、そこはアンなので。



 求めても仕方ない。クリスティナの肩から力が抜けた。アンの考えも聞いてみようか、と気を取り直して。


「ね、『どちらになさいます』ってどういう意味だと思う?」


 アンの唇が少し開く。そんなことを言っていたかどうかを思い出しているのだろう。

でも、このお顔から「思い出した」になったことは、知る限り一度もない。


「いい、ごめん」


 そうなの? と思っているのはなんとなく分かる。一年も一緒にいたから。



「今日は一緒に寝よっか」


 クリスティナの提案はいつものようにすんなり通る。

なんとなく心細い気持ちは、アンにも伝染したらしい。ふたりは身を寄せ合って眠った。


 

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