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アンディの家庭事情・2

 亡くなった人の家を乗っ取るみたいで嫌だ。

言ったアンディに「そんなこと」と、結婚前の母が笑顔を見せる。


「お兄様が住んでいらしたのはご領地の城砦で、私たちが住むのはこの街にあるお屋敷よ。彼が引き継いだ家は他にもあるけれど『子供達の教育を考えると、この街で暮らすほうがいいだろう』って」



 なんの問題もない、そう言いたいのだろうが、アンディの疑問は膨らんでいる。


 母の付き合っている男性には、子供のアンディでも育ちの良さを感じた。

けれど、伯爵家の次男だとは思いもよらなかった。そんな良いお家の人が一家揃って亡くなるなんて、おかしい。



「子供には難しい話よ」

「聞かせて」


 私も詳しくは知らないと前置きした母が語ったのは「古くから領有権争いの続く土地に建つマクギリス伯の城砦が攻められて、当主一家が命を落とした」という、前に他人事として噂に聞いた話だった。


「そのマクギリス伯の弟がマイルスさん?」


歴史が急に身近になる。


「そうよ。びっくりでしょう。私も付き合い始めてから彼が名門貴族だと知ったの。養子縁組してくださるから、アンドリューも名門貴族の一員よ。シャーメインは跡取り娘ね」


 儚げで頼りない母に似合わない熱のこもった口調は、アンディに居心地の悪さを感じさせる。



 母は変わってしまった。早く大人になり自分が生活を支えなければと思っていたけれど、その必要もなくなった。

血の繋がらない子供と養子縁組をしてくれようというのだから、マイルスさんは余裕のある人だ。


 これまでの意気込みが虚しくなる。しょせん子供の決意だ、他愛もないと微笑ましく見られて終わりだろう。



 一緒には暮らせない。アンディのなかで徐々に家を出たい気持ちが大きくなる。


 妹シャーメインは甘えたい盛りで、かまって欲しいとついて回る。それも煩わしく感じられた。


 アンディがマクギリス領にたどり着いたのは、おおむねそんな理由だった。






「シャーメイン、お目覚めの時間よ。お兄ちゃまはもう起きているわ」


 母は寝台に腰掛けて妹の背中を優しい手つきで揺する。シャーメインが「ふう」と息を吐く。


 まだ寝たいのだとわずらわしげに寝返りをうつ姿は、クリスと重なった。



 山狩りに怖気づき尻尾を巻いて逃げ出した。少しでも早く家に帰りたいと、急ぎに急いだ。


 マイルスさんのお屋敷に引っ越していたはずなのに元の家で暮らしていた母は、疲れきったアンディを文句ひとつ言わずに迎えてくれた。




『クリスが困った時に逃げ場を提供できる大人になりたい』


自分の言った言葉は忘れていない。



「ほら、シャーメイン。お父様がお出かけになる前に。アンドリューも着替えてちょうだい。皆でお見送りをしましょう」



 これまでとは比べものにならない立派な屋敷に住み、学校も変わった。

以前ならわだかまっただろうことも「いつかクリスのために」と思えば、マイルスさんへの感謝の気持ちすら湧く。


 アンディの変化を母は喜んでいるようだった。



「シャーメイン、おはよう。朝だよ」


アンディはクリスに掛けたのと同じ言葉で妹を起こした。


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