クサリヘビと狼はお隣さん同士
なんの為に学んでいるかと問われたなら。
正直に「立派な引き込み役(強盗の)になるためです」などと答えてはいけない。
おしゃべりには「踏んだら終わる罠」が仕掛けられているとは、五歳の頃から知っている。
今より五歳のクリスティナのほうがお利口だったかもと思うくらいだ。
「新しいことを知るのは楽しいことです」
ズレた答えだと思うけれど、機転の利いた返しなるものはこれ。
その証拠にアルバ夫人の頬があがり上機嫌がみてとれる。
「そうね、シンシア・ティナ。素晴らしいわ」
それに比べて……と、アンに視線を移して笑みが消える。
申し訳ない気持ちになるクリスティナと違い、アンは気にする様子もない。反応が薄いのがアンだ。
「この子には期待するのも可哀想かしらね」
夫人の呟きにクリスティナは背筋をヒヤリとさせた。
今夜もアンが寝るのを待って、こっそりとぴぃちゃんを呼ぶ。
「こんばんは、ぴぃです」とすぐ来てくれるのは、本当に心強い。この土地では実力を発揮できないとしても、ぴぃちゃんのかわいさは不変。
ぴぃちゃんに「今日の出来事」を話すうちに寝てしまうのが習慣になり、ぴぃちゃんを見ただけで眠くなるのが困りもの。
少し前に、ずるちゃんについて聞こうとしたら「ぴぃは、あんまり仲良くない」風な仕草をしたので、今夜は狼のはうるちゃんについて聞いてみる。
「ルウェリン家のはうるちゃんは、仲いい? 仲良しなら右の羽を、仲悪いなら左の羽をあげてください。あ、普通ならぴょんして」
ぴぃちゃんは間を置かずに、飛び跳ねた。どうやら「普通」らしい。鳥と猫なのに、山猫のにゃーごちゃんが一番の仲良しだとしたら、不思議な気がする。
ぴぃちゃんによればこの地に近いのはクサリヘビのアガラス家。
オヤジが「アガラス家とルウェリン家はかつて境界線が接していた」と言っていた。ヘビと狼がお隣同士なんて最悪じゃない?
――で「かつて」ってなんだっけ。
気が向けば、にゃーごちゃんのように、他のお友達もぴぃちゃんに会いに来るかもしれない。
思うに、にゃーごちゃんがぴぃちゃんにウォードを紹介したかったのだ。そこにたまたま私がいて「こんにちは」をした。
クサリヘビと狼も同じことをするとしたら。
「なんだか悪そうな……じゃなくて、怖そうで強そうなのが後になったね」
片翼を天井に突き上げる凛々しい動きは「ま、ぴぃもそこそこ強いので」と言いたいのだろうけれども、ぴぃちゃんは思い違いをしている。狼に勝てるのは熊くらいです。
訂正するにはクリスティナは眠すぎた。
お読みくださりありがとうございます
話のなかで都度いれていきますが、ご参考までに。
*カラス ぴぃちゃん マクギリス家
*山猫 にゃーごちゃん ハートリー家
*クサリヘビ ずるちゃん アガラス家
*狼 はうるちゃん ルウェリン家
以上騎士四家でした。
マクギリス家には子息エイベルと子女シンシアがいましたが、エイベルは他界。シンシアは行方知れずです。
ハートリー家の子息はウォード。クリスティナより八歳年上です。
本日中にもう一話投稿予定です




